妊娠中のストレスが子どもの成長に与える影響とは:最新研究から考える「親子の絆」の守り方

新しい命を授かることは大きな喜びですが、同時に心身ともに大きな変化を伴う時期でもあります。妊娠中のプレママの皆さんが「今のストレスが赤ちゃんに影響しないかな?」と不安に思うのは、とても自然なことです。

今回は、ドイツのハイデルベルク大学などの研究チームが発表した論文(Zietlowら, 2019)をもとに、妊娠中の感情的ストレスや産後の不安が、数年後の親子関係にどのような影響を与えるのかについて、わかりやすく解説します。

研究が明らかにしたこと:ストレスの連鎖と「反応性」

この研究では、産後に不安障害を抱えた母親のグループと、健康な母親のグループ(計63組)を対象に、長期的な調査を行いました。

主な発見は以下の3点です。

  1. 妊娠中のストレスと赤ちゃんのホルモン妊娠中に強い感情的ストレスを感じていた母親から生まれた赤ちゃんは、生後数ヶ月の時点で行った「ちょっとしたストレスがかかるテスト」において、ストレスホルモン(コルチゾール)の数値がより大きく変動することがわかりました。
  2. 5年後の親子関係への影響子どもが5歳(就学前)になった時の親子の関わり方を調べたところ、赤ちゃんの頃の「ストレスホルモンの反応の強さ」や、その時点での「お母さんの不安の強さ」が、親子間のやりとりの質に関連していることが示されました。
  3. 直接的な影響よりも「プロセスの積み重ね」重要なのは、妊娠中のストレスが直接5歳児の性格を決めるわけではないということです。妊娠中のストレスは、まず赤ちゃんの生理的な反応(ストレスへの敏感さ)に影響し、それがその後の日々の関わり合いを通じて、数年後の親子関係の質につながっていくという「プロセスの積み重ね」が示唆されました。

【事例紹介】Aさんと長男Bくんのケース(架空の事例)

研究の結果をより身近に感じていただくために、一つの事例を見てみましょう。

第一子を妊娠中のAさんは、仕事の責任が重く、パートナーも多忙でワンオペに近い状態でした。常に「しっかりしなきゃ」と気を張っており、毎晩のように将来への不安を感じていました。

出産後、長男のBくんは少しの物音で泣き出し、一度泣くとなかなか泣き止まない「敏感なタイプ」でした。Aさんは、Bくんが泣き止まないことにまた不安を覚え、「自分の育て方が悪いのかな」と自分を責めてしまいました。

Bくんが5歳になった頃、二人の遊びの時間を観察すると、AさんはBくんの顔色をうかがいすぎてしまったり、逆にBくんが自分の世界に入り込んでAさんの言葉が届きにくかったりと、少し「噛み合わない」瞬間が増えていました。


臨床心理学的視点からのアドバイス

この研究やAさんの事例から私たちが学べるのは、「ストレスをゼロにする」ことではありません。大切なのは、以下の3つのポイントです。

1. 赤ちゃんの「敏感さ」を個性のひとつと捉える

もし赤ちゃんがストレスに敏感な反応を見せる場合、それはお母さんのせいではなく、妊娠中からの生理的な準備状態(体質のようなもの)かもしれません。まずは「この子は少し刺激に敏感なタイプなんだな」と理解してあげることで、お母さん自身の心の負担を減らすことができます。

2. 「今」の不安を一人で抱えない

研究では、子どもが5歳時点での「お母さんの不安感」が親子関係に影響することが示されています。妊娠中のストレスを悔やむよりも、今のあなたの心が少しでも穏やかであることの方が、子どもの発達にはプラスに働きます。

3. 完璧な関わりを目指さない

親子関係は、日々の小さなやり取りの積み重ねでできています。一度や二度、ストレスでイライラしてしまったからといって、絆が壊れるわけではありません。大切なのは、ズレが生じた時に「今はちょっと余裕がなかったね」と振り返り、修復しようとする姿勢です。

かささぎ心理相談室から

妊娠中や産後の不安は、決して「お母さんの努力不足」ではありません。ホルモンバランスの変化や環境の変化という大きな荒波の中にいるのです。

もし、「自分は不安を感じやすいかもしれない」「子どもとの関わりが少し苦しい」と感じることがあれば、それは専門家と一緒に心の整理をするタイミングかもしれません。カウンセリングでは、お母さんの心のコップから溢れそうな不安を一緒に受け止め、親子がより楽に過ごせる方法を一緒に考えていきます。


引用元:

Zietlow, A. L., et al. (2019). “Emotional Stress During Pregnancy – Associations With Maternal Anxiety Disorders, Infant Cortisol Reactivity, and Mother–Child Interaction at Pre-school Age.” Frontiers in Psychology. https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2019.02179/full

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