クレプトマニア(窃盗症)について皆が理解しておくべき10のこと

Psychology Todayに

10 Things Everyone Should Understand About Kleptomania

クレプトマニア(kleptomania=窃盗症)について皆が理解しておくべき10のこと

という記事が上がっていたので、少し紹介しておきます。

クレプトマニア(窃盗症)とは

「窃盗症」とは、「何度警察に逮捕されてもまた万引きや盗みをしてしまう」「お金を持っているのに繰り返し盗んでしまう」といった病気です。

「それって病気なの? 万引きした言い訳してるだけじゃないの?」と誤解されやすいのですが、精神医学の診断基準にもきちんと記載されている精神疾患なんです。

国際疾病分類(ICD-10)では、「病的窃盗」という名称で、衝動制御障害の一つと考えられています。つまり、「万引きをやめたくてもやめられない」「盗みのための盗みを繰り返してしまう」というものです。

アメリカの精神医学会の診断基準(DSM-5)では、窃盗症(クレプトマニア)の診断基準は次の5項目となっています。

窃盗症(クレプトマニア)の診断基準(DSM-5)

A:個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。

B:窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。

C:窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。

D:盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない。

E:盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。

ということですね。

記事の概要

この記事の概要は、

・クレプトマニアの人は、しばしば罪悪感や自責の念、抑うつ、自殺念慮に悩まされる。

・暴露反応妨害法(ERP)はクレプトマニアを持つ人々にとって効果的な治療法である可能性がある。また、SSRIやナルトレキソンも症状の改善に役立つ場合がある。

・専門家は、クレプトマニアの人には、刑務所に入れるよりも、裁判所の監視の下で治療を受けるのが良い選択肢だと勧めている。

というものです。

クレプトマニア10の事実

「理解しておくべき10のこと」についても、簡単に紹介します。

1.DSM-Ⅴでは、クレプトマニアは衝動制御障害に分類されているが、この疾患は強迫スペクトラム障害(OCD)、気分障害、物質乱用障害と共通の特徴を持っている。

2.この病気の人は、万引きに関連した侵入的思考や衝動を経験しており、しばしば行為の後に罪悪感や抑うつを感じる。万引きしたものは通常、不要なもので、ため込んだり、捨てたり、店に戻したりする。

3.Annals of Clinical Psychiatry誌に掲載された研究によると、クレプトマニアの診断の重症度は、盗みによる「報酬」を感じること、また強迫性障害や神経性食欲不振症などの共存と強い相関があることが明らかになった。

4.OCDと同様に、認知行動療法(CBT)の一種である曝露・反応妨害法(ERP)がクレプトマニアの治療に有効であることが示唆されている。

日本語では、次の論文が概要を知るのによかったです。

「認知行動理論に基づく窃盗症の理解―研究動向および今後の展望―」

5.クレプトマニアの治療に有効であると考えられる薬物には、SSRIやナルトレキソンなどのオピオイド拮抗薬がある。

6.文献上では、venlafaxine投与の副作用として、クレプトマニアがクローズアップされている症例が数例ある。

→ venlafaxineは、イフェクサーという商品名で使われているSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)です。抗うつ薬によって気分が高揚したり、衝動性が高まることがあり、それが万引きなどの行動につながる(ことがある)ということのようです。

次の記事も参照。

7.抗うつ薬によって誘発される盗癖は、通常はうつ病の寛解状態のときに現れる。

抗うつ薬によるアクティベーション・シンドローム(賦活性症候群)については、日本うつ病学会「抗うつ薬の適性使用に関する委員会」の、

「抗うつ薬の適切な使い方について―うつ病患者様およびご家族へのメッセージ―」

https://www.pmda.go.jp/files/000146143.pdf

を参照してください。

こちらは専門家向けですね。

SSRI/SNRIを中心とした抗うつ薬適正使用に関する提言

https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/working/kouutsu.html

8.クレプトマニア患者の64%から87%が逮捕され、15%から23%が投獄されている。

9.2015年のメイン州最高裁判例では、クレプトマニアによる「心神喪失を理由とする無罪」の抗弁は不成立となった。

「抗弁」というのは、訴訟で被告が原告の主張に対して行う反論のことです。最高裁の判例で認められなかった、つまり、責任能力はあるとされたということですね。

日本の弁護士事務所のサイトに次のような記事がありました。

責任能力を問われる?問われない?過去の判例から見るクレプトマニアの責任能力

10.刑事司法制度から、裁判所が義務付ける治療への転換が適切であり、コストの削減にもつながりうると指摘する専門家もいる。

クレプトマニアについてはまだわかっていないことも多く、患者さんたちは、大きな困難を抱えて闘っています。向精神薬や心理療法による介入が助けとなる可能性があり、法的措置よりも、思いやりのある治療がより大きな利益をもたらす、ということでした。

クレプトマニアに関する本と動画

クレプトマニアに関する本と動画をいくつか紹介しておきます。

河村重実『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか?窃盗癖という病』飛鳥新社、2013年

吉田精次『万引きがやめられないークレプトマニア(窃盗症)の理解と治療』金剛出版、2020年

クレプトマニアの自助グループ

クレプトマニアの人たちの自助グループは、以下のリンク先から探すことができます。

クレプトマニアの自助グループ一覧(赤城高原ホスピタル)

http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/Kleptomania_meeting.htm

「依存症オンラインルーム」の中に「クレプトマニア(窃盗症)」のZoomグループの紹介があります。

https://www.ask.or.jp/adviser/online-room.html

芦屋のカウンセリングルームかささぎ心理相談室

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