グループカウンセリングの方法と利点

グループカウンセリングとは、同じような悩みや困りごとを抱えた人たちが集まって、話し合いをするなかで問題解決の糸口を探ろうとする治療法です。

集団精神療法とか、グループセラピーと呼ばれることもあり、いくつかのアプローチがあります。

一対一のカウンセリングや心理療法とは違って、複数の参加者がいるので、他のメンバーの意見や態度を参考にすることができるのが特徴です。「他人は自分の鏡」と言われるように、他者に自分の姿が映し出されることも多いのです。

自分の人間関係のあり方や、個性に気づきやすい方法と言うこともできるでしょう。

グループによるさまざまなアプローチ

グループで行なわれるカウンセリングやセラピーには、どのようなものがあるのでしょうか?

代表的なものをとりあげて、簡単に説明してみます。

エンカウンターグループ

カール・ロジャースが1960年ごろから始めたカウンセリングの方法で、クライエント中心療法の考え方で進められていきます。ロジャースが始めたような「非構成」のエンカウンターグループでは、あらかじめ話題や進行方法などが決められることはありません。

「構成的」なエンカウンターグループは、教育関係の研修などでよく用いられています。リーダーから与えられた課題やエクササイズに取り組んだり、その体験をわかちあうことでグループは進みます。

精神分析的な集団精神療法

フロイトの精神分析は20世紀の初頭に広まりましたが、早くから精神分析的集団精神療法も行なわれていたようです。グループで自由連想をするなどして、無意識的なことを扱おうとしました。1940年代にはイギリスのタビストック・クリニックで、ビオンが専門家のトレーニングのためのグループをしていました。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)

ソーシャルスキル(社会技能)とは、人間関係や集団行動を上手に行なうための技術のことです。対人関係場面において、言葉を通じて、あるいはふるまいかたなどを通じて、適切に他者と関わる方法を学ぶようなグループです。

医療や教育などで行なわれることが多く、心理教育やロールプレイなども積極的に用いられます。

集団認知行動療法

うつ病などにの認知行動療法を集団で行なうものです。ソーシャルスキルトレーニングも、認知行動療法のひとつと言えます。活動記録やコラム法による認知の修正などがホームワークとして出されることがあります。

心理劇(サイコドラマ)

ヤコブ・モレノが1920年代に開発したグループセラピーの手法で、その人の悩みや葛藤を実際に演じてみることで目に見えるかたちにしていこうとします。

ゲシュタルト療法

サイコドラマの影響などを受けて、フリッツ・パールズらが考案したアプローチです。エンプティ・チェアなどの技法を用いて、「いま・ここ」の体験を促進するような関わり方です。

セルフヘルプグループなど

断酒会や薬物依存の人たちのセルフヘルプグループも、各地で行なわれています。名前の通り、「自助」のためのグループなので、専門家はあまり関与しないか補助的な役割を取ることが多いと思われます。

グループの利点

個人での相談やカウンセリングと比較したとき、グループで行なうメリットとは何でしょうか?

先日、オープンダイアローグという急性期の精神病の人を対象としたグループについての講演を聴きました。精神科医の斎藤環先生が、「個人精神療法なんてものは、100年前にフロイトが始めた奇妙な風習が残っているだけなのかもしれない。グループで関わることで、転移(治療者とクライエントさんの関係が難しくなるようなことです)も起きにくいし、効率がいい」なんてことをおっしゃっていました。

個人カウンセリングを中心にやっているカウンセラーとしてはそんなこと言われるとちょっと困った感じがしなくもないのですが、グループならではのメリットがあるのも確かです。

「悩みごとなんてすごくプライベートなものだし、信頼できるカウンセラーにだけ話したい」ということもあるでしょうが、カウンセラー以外にも参加者がいるということは、それだけ共感的に支えてくれる「仲間」や「味方」が増えるということでもあるのです。

先にも書いたように、「他人は自分の鏡」です。他者の反応や人間関係を通じて、より自分自身の真実の姿が見えやすくなります。

それに、他の人の考え方や視点を取り入れることで、より柔軟にものごとを見ることができるようになるでしょう。自分たちの経験をわかちあい、他者の経験から学ぶ機会となります。

また、お互いに共感したり、助け合うことを通じて、自分自身(や家族などの身近な人々)を助ける方法を学ぶこともあります。他のメンバーがその人の問題や困りごとを解決していくプロセスに同行し、手伝うことで、いろいろな問題解決法を身につけることだってできるのです。

依存症や災害・事件などの被害、慢性的な疾患といったような特定の問題をもった人たちが集まるグループと、さまざまな課題をもつ人たちが混在しているグループがあります。

似たような特徴をもった人たちの集まりは、それだけ集団としてのまとまり(凝集性)が高まるでしょうし、問題や解決法をシェアしやすいと思われます。

他方、いろんな人たちが混ざっているグループは、自分とは違ったタイプの人たちとのつきあいかたや、折り合いのつけかたなどを学ぶことができます。それに、自分だけでは思ってもいなかったアイデアや個性に触れることが、変化や成長のよい触媒となるかもしれません。

こういうことが、グループならではの利点として挙げられるのではないでしょうか。

 

グループセラピーの長い過去

少し余談です。

カウンセリングというと相談室でカウンセラーと一対一で向き合って(あるいはクライエントさんは寝椅子に横になって)というイメージがあります。

でも確かにこれは、この100年くらいの風習なのでしょう。

心理療法家やカウンセラーが「専門職」として分化してきて、個人主義的な考え方を背景に(あるいは近代的な主体を前提に)、「個人心理療法」が発展してきました。

近代以前の「カウンセリング」(という名称はありませんでしたが)は、基本的にはグループで行なわれていたのです。

エビングハウスは「心理学には長い過去があるが、その歴史はきわめて短い」という言葉をのこしていますが、カウンセリングの歴史も100年ほどとはいえ、それ以前の「長い過去」もあるのです。

いつの時代の人だって、悩みごとや困りごとはあったでしょうし、うつなどのメンタルヘルスの問題を抱えることだってあったはずです。

たとえば困りごとがあって村の長のところに相談に行くと、皆で車座になってあれこれと話合ったり、困っている当人の言葉に耳を傾けていたでしょう。

あるいは、「あの人はこのごろどうも様子がおかしい」「悪霊にでも取り憑かれたのではないか」ということで、呪術師やシャーマンのところに連れていかれる人もいたかもしれません。

そのときも、シャーマニズム的な治療は基本的にはグループで行なわれることが多かったのです。サイコドラマのように何かを演じたり、あるいは歌ったり、踊ったり、悪霊の言い分に耳を傾けたり交渉したり。

精神分析やグループセラピー、心理劇、音楽療法、ダンスセラピーなど、現代の心理療法はさまざまな技法やアプローチに分化しましたが、もとをたどると統合的なセラピーが行なわれていたんだというのが本当のところなのでしょうね。

 

かささぎ心理相談室の歌って踊れるグループカウンセリング「かささぎ座」のご案内もお読み下さい。

 

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