解離性障害とカウンセリング

解離とは

「解離」とは、強いストレスやショックに対して心が自らを守る防衛規制のひとつで、記憶や感情といった体験が切り離されてしまう状態を意味しています。

「解離性障害」は、この解離という心の働きが主な症状となり、日常生活や人間関係に影響を及ぼすようなものです。

かつては「解離性ヒステリー」と呼ばれていました。

フロイトとブロイアーの『ヒステリー研究』(1895年)という歴史的な著作に登場する「アンナ・O」という仮名をつけられた女性の事例も、現代でいうところの解離性障害だったと思われます(他の症状も見られます)。

アンナはユダヤ系の裕福な家の子女でしたが、幻覚や視覚の異常、摂食障害、身体の麻痺、言語障害、いわゆる二重人格などの多彩な症状に苦しみ、ブロイアーの治療を受けたのでした。

トラウマと解離

解離性障害の背景には、トラウマ的な体験があることが多いと考えられています。解離は、トラウマから自分を守るために、体験の一部を切り離すような心の働きなのです。

トラウマとなるような大きなストレスと遭遇したとき、生きものは次の3つの反応を示します。

Fight/Flight/Freezeという体験様式の頭文字から、「3つのF」と呼ばれています。

闘う/逃走する/固まる

という3つです。

道を歩いていて野良犬に襲われそうになる場面を想像してみてください。

心拍数は上昇し、筋肉は緊張し、呼吸は荒くなります。そして目の前の犬以外は目に入らなくなるでしょう。

これは、生きものとして生き延びるために自然に備わった反応です。

これは、野良犬と闘うか、あるいは逃げ出すかといった行動に移る準備です。

いずれも適応的な行動ですね。

3つめの「固まる」という反応はどうでしょうか?

一見、役に立たない行動に見えるかもしれません。けれどもネズミなどの小動物が、闘うことも逃げることもとてもできそうにない敵に襲われたときには、固まって仮死状態になる方が生き延びる可能性が高まることもあるのです。

解離は、この3番目の「固まる(Freeze)」反応に由来していると考えられます。

逃げられない状態に陥ったとき、苦痛や恐怖を感じないような働きをもっています。『フィアレス』という映画では、大勢の犠牲者を出した飛行機事故に遭遇した後、恐怖を感じなくなった男性が主人公でした。

 

解離性障害の症状

解離性障害には、いくつかの種類が含まれています。主な症状を次に挙げます。

解離性健忘

いわゆる「記憶喪失」です。ショックな出来事により、自分にまつわる記憶の一部(あるいは全部)が失われてしまいます。気がつくとどこかにいて、「私は誰? ここはどこ?」といった状態で困惑してしまうのです。

阪神淡路大震災の後、記憶喪失の人がマスコミに取り上げられたことがありました。

病院でも何人か、全生活史健忘(自分に関するすべてを忘れてしまう症状です)の方に出会ったことがあります。

解離性遁走

仕事や家庭生活のストレスが抱えられなくなり、突然、どこかに逃げ出してしまいます。そのときに、自分についての過去の記憶が失われてしまうのです。

遁走のことを「フーグ」といいます。音楽でも「遁走曲(フーガ)」という形式が知られていますね。「森の熊さん」のような、先導するフレーズを後から追いかけていくような曲です。

離人症

自分が自分だという感覚が弱まり、まるで外から自分を眺めているような感覚になります。また、周りの世界もヴェールを通して見ているような、実感の乏しい感じになります。

生きていても現実感がなく、すべてが他人事のように感じられ、感情も動きません。また、地に足が着いていないような、ふわふわした感覚をもつ人もいます。健康な人でも、ひどく疲れていたり、寝不足のときに離人感を体験することがあります。

解離性同一性障害

二重人格や多重人格と呼ばれることもある病気です。心のなかに複数の人格が存在し、交互に現れます。記憶の連続性が失われることが多いので、「いつのまにか買い物をしていた」「知らない間にトラブルになっていた」といったことで困るのです。

古典的な『ジキル博士とハイド氏』や、ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』など、小説や映画などに表現されることもあります(ビリー・ミリガンの話は実話が元になっています)。それだけ不思議な現象ということですね。

 

解離性障害のカウンセリング

解離は、不安やストレス、あるいは脅威を感じる環境への反応です。

したがって、解離性障害の治療はなによりもまず、ストレスとなる要因を取り除いて、安心できる環境や人間関係をつくることが重要になります。

境界性パーソナリティ障害の人が、分裂という心の防衛規制によって、他者を「良い」と「悪い」に分けるのと比べると、解離性障害の人は自分の一部を切り離すのが特徴です。

解離性障害となる人は、ストレスにさらされたときに「自分をわけて」つじつまを合わせようとするのです。従順で、自己主張が苦手な人が多いという印象を受けます。

カウンセリングでは、解離性障害に関して学んだり(心理教育といいます)、解離症状への対処法を身につけつつ、本人がストレスをためこまない人間関係をもてるようにサポートしていきます。

また、心のなかで葛藤を上手に抱えておけるようになると、解離を起こしにくいのです。これは、心の器が大きくなって、それだけ不安やストレスを入れておきやすくなったとイメージすることができます。

また、解離性障害の背景にトラウマがあるときには、その治療が必要になります。

詳しくは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とカウンセリングトラウマ 、PTSDとフラッシュバックへの対処法をお読みください。

不安や緊張、あるいは混乱やフラッシュバックなどが激しい場合は、薬物療法や入院などの医療的な処置を優先すべきことがあります。

カウンセリングによって、せっかく解離して安定を保っていた心がかえって混乱することだってありえます。カウンセリングの適否や、導入するタイミングなどは、担当の医師やカウンセラーと話合う必要があるでしょう。

 

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