砂遊びが脳を変える?最新研究が解き明かす箱庭療法の神経科学的効果
かささぎ通信をご覧の皆様、こんにちは。
3月はできるだけたくさんブログ記事を更新してみようと思っています。
決して確定申告がめんどくさいからではありません。
今回は、2020年に「International Journal of Play Therapy」に掲載され、アメリカ心理学会(APA)でも注目された非常に興味深い論文をご紹介します。それは、箱庭療法が「全般不安症(GAD)」の症状を改善するだけでなく、脳内の特定の部位に生理的な変化をもたらしたという報告です。
1. 脳の「視床」に注目した画期的なアプローチ
これまでの研究でも、箱庭療法が不安を減少させることは尺度によって証明されてきました。しかし、今回の研究(Foo, Freedle, Sani, & Fonda, 2020)が画期的なのは、脳内の「視床(ししょう)」という部位の代謝変化を測定した点にあります。
視床は、五感からの感覚入力を処理し、感情を司る「扁桃体」や「大脳辺縁系」と密接につながる、いわば脳のコントロールセンターです。全般不安症(GAD)を抱える人は、この視床の機能に課題があることがこれまでの神経画像研究で示唆されてきました。
2. 9週間のワークがもたらした驚くべき変化
研究の対象となった23歳の女性患者は、治療前は重度の不安症状を抱えていました。彼女は、認定資格を持つセラピストによる1時間の箱庭療法を、9週間にわたり計18回受けました。
その結果、心理尺度における不安の数値が「重度」から「正常範囲」へと劇的に低下しただけでなく、脳の画像診断においても見逃せない変化が確認されました。
- ニューロンの健康指標の向上: 脳内の神経細胞の機能を示す指標(NAA/クレアチン比)が、治療前は正常値を下回っていましたが、治療後には左右両方の視床で正常範囲内まで回復したのです。
3. なぜ「砂」と「ミニチュア」が脳に効くのか
論文の著者たちは、箱庭療法が持つ「多感知的(マルチセンサリー)」な側面が、脳を変える鍵であると考えています。
砂に触れる感触、ミニチュアを目で見て配置する三次元的な作業。これら豊かな感覚入力が視床に直接働きかけ、過剰なストレス反応を和らげるとともに、神経の健康と機能を促進した可能性があるのです。
これは、箱庭療法が単なる「癒やし」の場であるだけでなく、脳の下部組織(サブコーティカル・システム)を再調整し、私たちの「考える脳」を支える土台そのものを整えるプロセスであることを示唆しています。
臨床心理学的視点:イメージと身体の統合
日本で箱庭療法を広めた河合隼雄先生の系譜に連なる者として、この「脳の変化」というデータは、私たちが臨床現場で日々感じている「イメージの治癒力」を強力にバックアップしてくれるものです。
箱庭の中で風景が変わり、物語が動くとき、クライエント様の身体、そして脳の深い部分でも再構成が起きている。言葉による対話だけでは届かない領域に、砂とイメージ、そしてセラピストとの「自由で保護された空間」での関係性が届いていることが、科学の目を通しても明らかになりつつあります。
まとめ:身体から始まる心の変容
「不安で頭がいっぱい」というとき、私たちはつい思考だけで解決しようとしがちです。しかし今回の研究は、手を使い、感覚を研ぎ澄ませる「身体的なワーク」が、脳の状態を物理的に変え、結果として私たちの感じ方や考え方を整えてくれることを教えてくれています。
箱の中の小さな世界で起きる変化は、あなたの脳という宇宙を、より健やかで安定したものへと作り変えていく力を持っているのです。
動画は懐かしの木村晴子先生。
Foo, M., Freedle, L.R., Sani, R. & Fonda, G. (2020). The effect of sandplay therapy on the thalamus in the treatment of generalized anxiety disorder: A case report. International Journal of Play Therapy, 29 (4), 191-200. https://doi.org/10.1037/pla0000137
