子ザルのパンチくんに学ぶ「愛着」と、大人のセルフケア
こんにちは、かささぎ心理相談室です。
ひさしぶりにブログを書いてみます。
最近、ニュースやSNSを通じて、世界中で話題になっている千葉県・市川市動植物園のニホンザルの男の子、「パンチくん」をご存知でしょうか?
パンチくんは2025年7月に生まれましたが、生後まもなくお母さんザルから育児放棄(ネグレクト)されてしまい、飼育員さんの手によって人工哺育で育てられました。そんな孤独で不安なパンチくんの心の拠り所となったのが、自分よりも大きなイケアの「オランウータンのぬいぐるみ」でした。
パンチくんは、このぬいぐるみの手を引いて歩いたり、ギュッと抱きしめたりしながら、過酷なサル社会の群れに馴染もうと奮闘しています。
このパンチくんの健気な姿は、心理学における「愛着(アタッチメント)」の大切さを、私たちにとてもわかりやすく教えてくれます。
以前に書いたエッセイ「愛の心理学」でもご紹介していますが、かつてハリー・ハーローという心理学者が行った有名な「アカゲザルの愛着実験」があります。
母親から引き離した子ザルに、「ミルクが出る針金のお母さん」と「ミルクは出ないけれど、温かい布のお母さん」を与えたところ、子ザルはミルクを飲む時以外はずっと「布のお母さん」にしがみついていました。
つまり、心が安心感を抱くために重要なのは、単に栄養を与えられることではなく、スキンシップなどの「接触の快適さ」なのです。心地よい接触によって安心感(安全基地)を得ることができた子猿は、それを心の支えにして、新しい環境や対象を探索するチャレンジができるようになります。
パンチくんにとって、飼育員さんの愛情あふれるケアと、肌身離さず抱きしめていた「オランウータンのぬいぐるみ」は、まさにこの「布のお母さん」でした。
過酷な状況におかれたパンチくんにとって、ぬいぐるみは不安な心を安定させるための立派な「セルフサポート(セルフケア)」だったと言えます。
その絶対的な安心感の土台があったからこそ、パンチくんは最近、他の大人のサルの背中におんぶしてもらったり、雨宿りの真似をしたりと、たくましく群れのルールを学んでいます。なんと、時にはぬいぐるみを持たずに、他の子ザルたちと元気に遊べるようにもなってきたそうです。安心できる「安全基地」があったからこそ、新しい世界へと一歩を踏み出し、ちゃんと育っていくことができたのですね。
そしてこれは、私たち人間にとっても全く同じです。
大人になっても、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめたり、話しかけたりしてホッとした経験を持つ方は多いと思います。「大人なのに恥ずかしい」なんて思う必要は全くありません。それは自分の心を守り、安心感を取り戻すための、とても理にかなった「セルフケア」なのです。
なんだったら、部屋にある観葉植物に「おはよう、元気だね」と声をかけたり、ふと現れたハエトリグモに「おや、どこから来たの?」と話しかけたりする人だっていますよね。それでいいんです。自分が心地よく、安心できる「つながり」を持てる対象があることは、心の健康にとって非常に価値のあることです。
心理学の研究でも、大人の愛着スタイルは固定されたものではなく、「安全な関係性」によって後からでも変化し、回復していくことがわかっています。幼い頃にネグレクトなど辛い体験をして未解決の傷を抱えていたとしても、パンチくんが飼育員さんやぬいぐるみに支えられて成長したように、その後の人生で出会う安心できるつながりの中で、愛着は育て直していくことができるのです。
誰か信頼できる人との関わりでもいいですし、自分なりのセルフケアアイテム(ぬいぐるみや動植物など)でも構いません。もし今、漠然とした不安や生きづらさを感じているなら、まずは自分が一番ホッとできる「布のお母さん」のような存在を身近に置き、たっぷりと自分をケアしてあげてくださいね。
私たちカウンセラーも、皆さんが自分らしい人生の物語をつむぎなおすための「安全基地」となれるよう、いつでもお待ちしております。
久
