スピリチュアルとカウンセリング:心の探求と癒しの統合

心理学とスピリチュアル

 日本心理学会の機関紙『心理学ワールド』の59号で「スピリチュアリティ」が特集されていました。

 「スピリチュアル」「スピリチュアリティ(Spirituality)」という言葉は、TV番組の『オーラの泉』などの影響で、「前世」「守護霊」「霊視」といったことと関連しているイメージを抱かれがちですよね。スピリチュアルと聞くと、美輪明宏さんや江原啓之さんの顔が思い浮かぶ人もいるかもしれません。


 「スピリチュアル・カウンセラー」が守護霊や前世などを霊視して助言やメッセージを伝える、といったことがエンターテイメント的に消費されたこともあって、カウンセリングや心理療法を語るときに「スピリチュアル」に触れにくい雰囲気が生まれたように感じます。

 また、日本では90年台のオウム真理教の事件以来、スピリチュアルなことに不安や拒否感をもたれやすいということもあります。

 けれども本来、「spiritual」は「精神的な」「崇高な」「厳粛な」といった意味をもつ言葉です。降霊術だとか、超能力とかはあんまり関係ないんですね。いや、若い頃のユングが降霊術に熱心だったことを見たら、ちょっとは関係あるかもしれませんが、スピリチュアルな信念や実践は、一般的には次のような要素を含んでいると思われます。

・内面の探求:自己の本質を探究し、より深い理解や自己成長を求める

・目的や意味の追求:人生の目的や意味を見出す

・霊性の統合:人間の物質的な側面と精神的な側面の統合

・平和や愛の追求:他者とのつながり、共感、愛など

 また、とくに終末期医療などの分野において心身のケアだけでなく、「スピリチュアルケア」も重視されるようになってきており、日本スピリチュアルケア学会などの学術団体も活躍しています。

新しいスピリチュアリティ

 『心理学ワールド』で、宗教学者の島薗進先生は、次のように書いています。

20 世紀,とりわけ 20 世紀の最後の四半世紀になって,宗教とは独立したものとしてスピリチュアリティを捉える考え方が広がってきた。「新しいスピリチュアリティ」(新霊性)とよべる新たな運動や文化形態(新霊性運動・新霊性文化)だ 。アメリカのニューエイジや日本の精神世界,またグリーフワークの集いやセルフヘルプ・グループの広がりは,こうした新しいスピリチュアリティの例だ。

 前近代的な世界では、宗教というのは、人々の前提であって、「生まれる前からそこにある」ものだったのでしょう。一方、現代では、宗教は「個人の内面」や「選択」に関わるものと捉えられています。信仰を持たない人たちも大勢いるわけです。

 従来の世界で、宗教が担ってきた「死や喪失体験にどう向き合うか」「癒しとは」「他者との繋がり」といった問題は、私たち一人一人の内面的なテーマとなってきました。
心理学や心理療法が、こうしたテーマを扱うことも増えていると思います。

健康とスピリチュアル

 WHO(世界保健機関)において、1998年に「健康」について次のように定義することが提案されました。

Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、スピリチュアルにも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」

 身体(physical)、精神(mental)、社会(social)だけでなく、健康であるにはスピリチュアル(spiritual)も大切だというのですね。

 特定の宗教や代替医療を支持していると誤解されるのではないかといった懸念から、結局WHOではこの新しい定義は採択されませんでした。
 とはいうものの、人間が生きる上では、「スピリチュアル」な側面も重要なのだということが共有されるきっかけにはなったのですね。

 ここで言われている「スピリチュアル」は、その人が生きるにあたって目的や意味を与えてくれる何か、人生における信念や価値観といったような意味合いなんだと思います。

苦悩とスピリチュアル

 重い病いや、喪失体験、トラウマ などを抱えたクライエントさんとお会いするとき、「生きている意味がわからない」「こんなに苦しいなら死にたい」と語られることがあります。

 私たちカウンセラーは、「神様のために」とか「天国にいけないから」といった(宗教や神話に基づいた)物語を伝えることはできません。「生きる意味がわからない」こと、「死にたいという気持ち」に、丁寧に繊細に耳を傾けるのがカウンセラーのできることです。

 そういうときには「袋小路に入って出ることができない」「どうしたどうしたらいかわからない」状態になっていることが多いのですが、一人で抱え込むのではなく、他者に話をすることで、不思議と新しい視点が生まれたり、あるいは思わぬ出来事で事態が開かれることがあります。

 クライエントとカウンセラーの間に生じてくる夢やイメージ、偶然の出来事といった「第三のもの」が、プロセスを動かすとも考えられます。

 その「第三のもの」を、「スピリット」と呼んでもいいのかもしれません。

Spirituality評定尺度

 スピリチュアリティを評定する心理尺度なども研究されています。

 たとえば

Spirituality評定尺度の開発とその信頼性・妥当性の検討 比嘉 勇人

では、

といった15の質問に5件法(まったく思わない~非常によく思う)で回答し、『自覚』 『意味感』 『意欲』 『深心』 『価値観』と名付けられた5つの因子を見ることができます。


 カウンセリング・心理療法における「第三のもの」については、「うなぎの話―カウンセリングの三人目のお客さん」でも書きました。よろしければご一読ください。

神戸・芦屋・西宮のカウンセリングかささぎ心理相談室

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