感情のコントロールができない

聖人君子でもない限り誰だってイライラしたり怒ったり、悲しみや憎しみなどの気持ちを抱くことはあるでしょう。

感情が動くことは自然なことではありますが、ネガティブな感情をうまくコントロールできないことで、大切な人との関係が悪くなったり、自己嫌悪に陥ることがあります。そんなときにどうすれば、ほどよく感情とつきあえるのか、少し書いてみました。

公認心理師試験の勉強をしている人もよろしければご一読ください。

感情ってそもそも何のために進化してきたのか

進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは『人及び動物の表情について』という著作で、人間の感情やそれを伝える表情・身ぶりなども、動物から進化してきたことを明らかにしました。

猿はかなり表情もヒトと近いです。犬や猫と感情を共有したり、何を感じているかを推察したりすることもできますよね。

逆に、トカゲや蛇が何を感じているかって、わかりにくいんじゃないでしょうか。

「私はカエルの気持ちがよく分かる」って人も中にはいるかもしれないけど。

動物行動学者ニコ・ティンバーゲンは、動物の行動を研究するときの4つの視点を提唱しています。

(1)機構(メカニズム):どんな仕組みか

(2)機能(適応):適応にどう寄与しているか

(3)発達(固体発生):どんな過程を経て発達するか

(4)系統発生:進化の過程でどう獲得してきたか

「ティンバーゲンの4つのなぜ」という言葉でも知られています。

私たち人間の感情も、この4つの視点から見ることができそうです。

(4)の系統発生の視点から感情を検討したのがダーウィンですね。

(3)の発達の視点では、たとえば発達心理学では、乳幼児は生後3ヶ月ほどで「社会的微笑」といって、人の顔に反応して笑うようになるなんてことが知られています。

(1)のメカニズムは、怒ったときの血流の変化とか、筋緊張とかですね。

(2)の機能(適応)という視点から見ると、それぞれの感情は、たとえネガティブに思えたとしても生物として生き延びるために必要な働きをしているということになります。

たとえば「怒り」という感情は、敵から攻撃されたり、自分の大切なもの(食糧だとか家族)を奪われたときに生じる感情です。

怒りが表出できなくては、大切なものを守ることができないでしょう。

同様に、「恐怖」という感情は、そこに危険があることや助けが必要なことを仲間に知らせます。

「悲しみ」や「落ち込み」といった感情もまた、同胞からの情緒的なケアが必要であることを伝えてくれるでしょう。

ヒトは高度に社会化された動物ですので、他の人々と支えあったり、協力して生きていくために、複雑な感情表現を進化させてきたと考えられます。

人間の基本感情

アメリカの心理学者ポール・エクマンは、人の基本感情は「喜び」「驚き」「怒り」「恐れ」「嫌悪」「悲しみ」の6つで、文化や民族の差を超えて共通していると考えました。

エクマン博士がモデルとなったアメリカのドラマ『ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間』などで、一般的にも広く知られるようになりました。心理学者が容疑者の「微表情」を捉えて嘘を暴く、といったストーリーです。

ただ、その後の研究では、必ずしも文化や民族を越えて普遍的であるというわけでもなさそうです。

日本人の基本6感情の表情は「エクマン理論」に従うか? – 人工知能を用いて検証

日本人の表情がエクマンの理論とは異なることを実証 -世界で初めて日本人の基本6感情の表情を報告-

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-02-14-1

ディズニーの映画『インサイド・ヘッド』では、主人公の女の子ライリーのあたまの中で活躍する感情たちは、ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、カナシミの5人でしたね。

アメリカの心理学者ロバート・プルチックは、怒り、恐れ、期待、驚き、喜び、悲しみ、信頼、嫌悪という8つの基本感情と、そこから派生する二次感情を提唱しています。

感情の強さは、花びらの真ん中に向かって強くなります。たとえば、「煩わしい」という感情は、強まると「怒り」となり、さらには「激怒」となっていきます。感情を表現するボキャブラリーが増えるということは、それだけ自分や他者の感情の細かなニュアンスを感じ取ることができるということでもあります。

いきなり「激怒」するよりは、「なんかうっとおしいなあ」「煩わしいなあ」といったあたりでうまいこと対処できた方がいいですよね。

https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Plutchiks-emotional-wheel.png

日本語になっているのはこちら。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Plutchik-wheel_jp.png

感情をコントロールできない

たとえば「怒り」の感情がコントロールできずに、家族や職場の人にぶつけてしまうようなことがあると、人間関係に大きな影響があります。

どんなときに感情のコントロールが難しくなるのでしょうか?

ストレスをため込んでいたり、精神的・身体的疲労が大きいとき、睡眠が十分に取れていないときにも、怒りの感情を爆発させてしまいやすくなります。

また、上でも書いたように自分の感情のニュアンスをうまく把握できない人も、コントロールが苦手と言えます。

細やかに感じると、怒りの感情の裏には、悲しみや傷つきがあるかもしれません。だとしたら、怒りを爆発させるよりは、「悲しいんだ」と伝えた方が、関係性を壊さず、望むような結果を得やすいでしょう。「自分が何を感じているかを知る」ことがまず大切なんですね。

完全主義やネガティブ思考の強い人も、感情に左右されやすくなります。ときどき「まあいっか」「なんとかなるさ」って口に出してみるのもいいかもしれません。

感情の理論

心理学や生理学では、感情(情動)についていくつもの理論的考察がされてきました。

ジェームズ=ランゲ説

刺激を知覚するとまず最初に身体的な変化が生じて、この変化に対応して情動が動くという情動の末梢起源説です。

「われわれは泣くから悲しい、殴るから怒る、震えるから恐ろしい、ということであって、悲しいから泣き、怒るから殴り、恐ろしいから震えるのではない」

ウィリアム・ジェームズはこう言いました。

カナダの心理学者、ダットンとアロンは「吊り橋実験」(1974)で「生物学的反応の方が心理的な情動体験よりも先に起こる」ことを確かめました。

実験は、18~35歳までの独身男性を集め、渓谷に架かる揺れる吊り橋と揺れない橋の2ヶ所で行われました。男性にはそれぞれ橋を渡ってもらい、橋の中央で同じ若い女性が突然アンケートを求め話しかけます。その際「結果などに関心があるなら後日電話を下さい」と電話番号を教えるという事を行ったのです。結果、吊り橋の方の男性からはほとんど電話があったのに対し揺れない橋の方からはわずか一割くらいであったんだそうです。揺れる橋での緊張感を共有した事が恋愛感情に発展する場合があるという事になりますね。「悲しいかな男心」って感じですが。

キャノン=バード説

「情動の中枢起源説」とも呼ばれる理論で、ジェームズ=ランゲ説とは逆に「悲しいから泣く」「怖いから震える」と考えます。

たとえば道を歩いていたらガラガラヘビに出会ったとします(どこの道や)。

キャノン=バード説では、ガラガラヘビを知覚した情報は、脳の視床という部位を経由して二つに別れ、一歩は大脳皮質に、もう一方は視床下部に向かいます。

大脳皮質では「怖い」という感情が生まれ、視床下部では身体の緊張や動悸や呼吸が激しくなるといった生理学的反応が引き起こされます。身体的な反応は比較的ゆっくりなので、先に意識されるのは情動体験となります。

シャクターの二要因説

社会心理学者スタンレー・シャクターとジェローム・シンガーによって提唱された理論で、情動は身体反応とその原因の認知の両方が不可欠と考える情動の二要因説です。

彼らは、大学生にアドレナリンを投与し、彼らを二つの部屋に入れました。一つの部屋には、怒りを喚起するようなサクラ(実験協力者)がいて、もう一つの部屋には喜びを誘うサクラがいます。部屋を出た被験者(主体)に感情を聞き、身体反応が同じでも、状況によって感情が違うことを実証しました。つまり、アドレナリンによって身体が興奮しているのを、怒りの部屋に入った人は「自分も怒っている」と認知し、喜びの部屋に入った人は「私は嬉しい、興奮している」と認知したというわけです。

ラザルスのストレス理論

アメリカの心理学者リチャード・ラザルスは、『ストレスと情動の心理学―ナラティブ研究の視点から』などの著作で、ストレスと感情の関係について考察しています。

ラザルスは、状況をどう解釈するかということと、それを評価する認知的評価によって感情が生起すると考えました。

認知的評価は1次的評価と2次的評価に分けて捉えられます。

1次的評価は、自分にとって脅威的であるのか肯定的であるのかといった自分との関係性の評価です。

驚異的と評価されたら、「怖い」といった感情が喚起されます。

2次的評価は、自分がそれに対処可能であるかどうか、可能だとしたらどんな対処法が適しているかといった評価を表しています。

感情のエクササイズ

大学の心理学の授業や、ワークショップなどで、感情をテーマにした際にときどきやるエクササイズを紹介してみます。

スケッチブックと画材(クレヨンや色鉛筆など)を用意してください。

これから、いくつかの感情について、具体的にその感情を抱いた体験を思い出してもらいます。

そのときの感情の質感や伴っていた身体感覚などをできるだけ詳細に思い出し、それを描いてください。線や形、動き、色などを使って、できるだけその感情の「感じ」を表現してみましょう(いくつかの感情体験を思い出してもらいますが、今日この場で少し取り扱っても大丈夫かなと思えるような体験にしておきましょう)。

可能であれば、思い出すときに横になってみると、それぞれの感情に身体がどう反応するか、その違いがわかりやすいかと思います。背中の硬さとか緊張とか、けっこう違うものですよ。

それぞれ、3分から5分くらい時間を取ってください。

怒り

ここ何年かで、いちばん腹が立ったときのことを思い出して下さい。どんな状況で、誰に対して腹が立ったか、怒りを感じたか。そのときの身体の感覚。手をぎゅっと握りしめていたり、奥歯を噛みしめていたかもしれない。カッとなって、頭に血が昇ったかも。そのとき何が見えたか、相手の表情や周りの様子。何が聞こえたか。相手の声など。

十分思い出して味わったら、それを描いてみましょう。

楽しい

いちばん楽しかったこと、わくわくしたこと、大笑いしたことを思い出す。同様に、見えたもの、聞こえたこと、身体感覚、味覚や嗅覚、触覚などもあれば思い出してください。

十分思い出して味わったら、それを描いてみましょう。

悲しい

悲しかったことをひとつ思い出してみましょう。そのときの胸が塞がるような感覚だとか、目の前が暗くなった感じなど。

十分思い出して味わったら、それを描いてみましょう。

怖い

怖かったこと。あるいは驚いたこと。身体反応は? 心臓がばくばくして、脈拍があがり、呼吸が浅くなる?

十分思い出して味わったら、それを描いてみましょう。

恥ずかしい

怖い、というのと少し似ている? 同じように心臓がばくばくするかもしれないけれど、感覚的には違う。顔が赤くなったり。

十分思い出して味わったら、それを描いてみましょう。

幸せ

最後に、あなたの人生で、もっとも幸せと感じた瞬間を、できるだけ詳細に思い出してください。

十分思い出して味わったら、それを描いてみましょう。

一緒にこのエクササイズに取り組んでいる人がいたら、描いた絵とそのときの体験をシェアしてみてください。

プルチックの感情の輪から、気になる他の感情を選んでエクササイズしてみるのもいいかもしれません。

感情と上手につき合うために

感情と上手につき合うためにはどうすればいいのでしょうか?

感情に触れる

何度か書いているように、まずは自分の感情とできるだけ丁寧に、細やかに触れるということが大切かと思います。

「怒り」とか「悲しみ」といったはっきりとした感情になる前の、微細な気持ちや身体感覚の変化にどれくらい繊細になれるか、ということが、感情と上手につき合うコツです。

そのためには、先ほどの感情のエクササイズをしてみるのもいいでしょうし、アンガーマネジメントでよく言われる「アンガーログ」をつけてみるという方法もあるでしょう。

アートセラピーっぽくするのが好きなら、毎日、その日の気分を線や形、色で表現してみることが向いているかもしれません。コラージュだっていいでしょう。

忙しい現代社会に生きる私たちはたいてい、自分の微細な気持ちの揺れなんてことはとりあえず置いておいて、割り切って、日々のタスクをこなしています。

たまには立ち止まって、モヤモヤっとして微妙な何かに触れてみる、

そういう時間を持つことが何より意味があるんじゃないかなって思うんです。

身体感覚に触れる

もうひとつは、「身体感覚や反応を捉える」ということです。

怒ったときは身体のどこが緊張するでしょうか?

お腹のあたりにいやーな感覚がふつふつと煮えたぎっているかもしれません。

悲しいときはどんな反応がありますか?

身体が鉛のように重くなる?

それとも胸の奥が空っぽになったような感覚でしょうか。

お腹や胸や、頭のどこかがすごく緊張していることに気づくかもしれません。

そんなときは、身体の中の緊張や嫌な感覚を、どうやったら外に出せるか工夫してみてください。

呼吸や動きで吐き出せることもありますし、あんまり嫌な感じがしないところー足の裏とか掌とかーに意識を移動させることで、少し楽になることもあります。

すごく激しい怒りやイライラの感情のときには、ヨガでいうところの火の呼吸とか、システマのバーストブリージングのような、短いスパンの強めの呼吸の方が身体内のテンションを外に出しやすいかと思います。

あるいは、座布団や布団を叩いたり、粘土を捏ねたり、壁を押してみたりといった運動がコーピングとして役に立つこともあります。

五感に触れる

あるいは、今度は外の世界に感覚を開いて、周りの音をできるだけ丁寧に聞いてみてください。

たとえば今、僕の周りでは少し強めの雨が落ちる音が聞こえています。

ときどき雷も鳴っています。風の音や、通り過ぎる車の音も聞こえます。

目の前にはパソコンの画面があって、周りを見渡すと、さっき倒した傘が見えます。

掌は、パソコンのキーボードを叩く気持ちいいリズムと触覚を感じていて、口の中にはさっき食べた魚肉ソーセージの味が残っています。

こんなふうに、五感にフォーカスしてみると、さっきまで自分をコントロールしていた感情から少し距離が取れるんじゃないでしょうか。

「ムッチャ怒ってたのに、今はそうでもないな」

なんてことに気がついたら、それが正解です。

思考を観察する

もうひとつは、「思考を観察する」です。身体感覚や五感も、「観察する」という言葉を使っても良かったんですが、どちらかというと「味わう」方がいいかなと思ってそう表現しました。

思考については、「観察する」という表現の方が、個人的にはしっくりきます。

「こんなことを考えているっていうことに気づいた」

「観察してみると、自分は今も〜すべき思考をしているな」

「きっと私は嫌われるって考えていることを観察して気づいた」

なんてことです。

さっきのラザルスの「認知的評価」ですね。

「1次的評価」で「みんな私を嫌ってる」と評価したら、

「2次的評価」では、「学校を辞めるしかない」とか「誰とも関わらずに生きよう」という判断がもたらされるかもしれません。

そこで、「あれ、私はまた、”みんな私を嫌ってる”って思ってるけど、これはちょっと極端だよな。私を嫌ってる人もクラスには何人かはいるかもしれないけど、仲のいい人だって3人くらいはいるし、まあ他の人は好きでも嫌いでもないけど、クラスメイトとしては普通に関わろうかなって人が大半だろうね、客観的にみたら」なんて考えることができると、さっきの「学校を辞めるしかない」とか「誰とも関わらずに生きよう」といった判断は出てこないかもしれません。

アンガーマネジメント

「怒り」という感情は、特に人間関係によくない影響を与えることがあります。

たぶん、原始時代とか戦国時代だったら、怒って相手をやっつけて言うことを聞かせる、というのはわりと正しい選択だったんでしょう。

でも現代の日本の社会では、下手に怒りを表出すると、DVとかパワハラと認定されてしまいがちです。

アンガーマネジメントとは、直訳すると「怒りの管理方法」といった意味です。怒りの感情と上手に付き合うための心理教育・心理トレーニングとして、1970年代にアメリカで提唱されました。

先ほども書いたように「怒り」も理由があって進化の過程で身に付けてきた感情です。

だから、「怒らない」ことを目標とするのは生物として間違っています。

怒ることが必要な状況では、ちゃんと怒った方がいいし、怒る必要がない場面では、怒り以外の表現で相手に伝えるスキルを身に着けるというのがアンガーマネジメントです。

カウンセリングと感情

カウンセリングでは、自身の感情をより細やかに感じたり、ネガティブな感情のきっかけとなっている非機能的な思考に気づくこと、不安定になったときの対処法を検討するといったことができます。

アンガーマネジメントを身につけることもできるでしょう。

感情のコントロールができないことに悩んでいる方は、どうぞかささぎ心理相談室のカウンセリングをご活用ください。

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