カウンセリングの効果とは? 副作用はあるの? 4つの共通要因と心理療法の統合 

「カウンセリングや心理療法って、本当に効果あるんですか?」と聞かれることがあります。面と向かって聞かなくても(カウンセラーには聞きにくいですよね)、そう感じている方は多いかもしれません。

悩みや問題について誰かに率直に話をするということはとても勇気のいることですし、貴重な時間とお金を費やすわけですから、どんな効果があるか気になるのは当然です。

「あなたにとって」カウンセリングを受けることがはたして意味があるのか、適応かどうかということは、ここでは答えることはできません(一般的には、初回面接に来ていただいて、ある程度お話をうかがった後に、カウンセリングが適しているかどうかも含めて、カウンセラーからの見立てや方針をお伝えすることになります)。

今日は、カウンセリングの効果についてのこれまでの議論や研究についてご紹介したいと思います。ややこしくなるのでここでは「カウンセリング」と「心理療法」を区別しないで話を進めようと思います。

カウンセリングには効果がない?

1952年、ハンス・アイゼンクというイギリスの心理学者が心理療法の効果について研究しました。

アイゼンクによると、神経症者の3分の2は、数年以内に自然治癒しているといいます。これは、精神分析などの心理療法を受けた人たちの治癒率よりも高いというのです。わざわざカウンセリングや心理療法を受けなくても、多くの人は「自然と」よくなるのです。

1960年代に行った研究でも、アイゼンクは「行動療法を除けば心理療法の効果は実証されなかった」と主張しています。「行動療法を除けば」と主張したところがミソで、アイゼンクさんは『精神分析に別れを告げよう―フロイト帝国の衰退と没落』なんていう、アンチ精神分析の本を書いた人でもあるので、学派間の優劣争いのようなところもあるかと思われます。

アイゼンクの主張は、当然のことながら大きな衝撃を与えて、そこからさまざまな議論や反論が生まれました。

「心理療法は、本当に効果があるのか? だとしたらその効果とは何なのか?」といった根本的な疑問が抱かれるようになり、さまざまな効果研究が行われました。また、いくつもの効果研究を統合的に見るためにメタ分析(いくつもの研究結果を統合的に分析すること)という手法が導入され、より科学的・客観的な研究が進められました。

そして、心理療法を受けた人は、そうでない人よりもより改善したという結論が共有されるようになりました。過去30年くらいのメタ分析からは、心理療法の平均的な効果は、治療を受けた人の8割が、受けなかった人よりもより大きな改善を示したということが明らかになったといいます。

学派間の優劣とドードー鳥の裁定

メタ分析による統合的な研究が進むと、精神分析やクライエント中心療法、行動療法、認知療法などのさまざまな治療法は、その効果という点で大きな違いはないということが明らかになってきました。どの学派によるアプローチだろうと、「同じくらい効果がある」というのです。

それまでは「精神分析がいちばん」「いやいや行動療法だ」と各学派の代表ががんばっていたのに、いざ科学的に比べてみるとどれも似たりよったりだ、なんてことが分かってきたというわけです。

心理療法の効果に学派間の大きな優劣はない、という主張は「ドードー鳥の裁定」と呼ばれるようになりました。ローゼンツヴァイクが、心理療法の共通因子について述べた論文で、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のドードー鳥のエピソードを副題に使ったことに由来しています(ローゼンツヴァイクは、P-Fスタディという心理テストを作ったことでも知られています)。

1936年の論文ということなので、ずいぶん昔から、「みんな、俺が俺がと言ってるけど、まあ大して変わらないよ」なんて意見はあったということですね。

『不思議の国のアリス』のドードー鳥のエピソードとは、こんな話でした。

涙の池に落っこちた、アリスとネズミやインコなどの動物たちを乾かすために、ドードー鳥は「かけっこ」を提案します。みんな丸いコースをぐるぐるまわってかけっこを始めました。ドードー鳥が「かけっこおわり!」というと、みんな「だれが勝ったの?」と尋ねます。

ドードー鳥はしばらく考えたあと、「みんな勝ったんだよ。だから全員が賞品をもらうんだ」と言ったのです。

 

カウンセリングの共通要因

 

さまざまな学派の心理療法に共通する因子(common factors)についての研究(Lambert, 1992)によれば、心理療法の効果は、(1)「患者側の因子」(環境因や本人の資質など)が40%、(2)「治療者−患者関係の因子」(共感的な関係や相性など)が30%、(3)「治療に対するプラセボや期待の因子」が15%、(4)「治療技法の因子」も同じく15%とされています(ただし、このLambertの主張に関しては、根拠が乏しいとの批判もあります)。

各学派が優劣を競っている「技法」の占める割合が、意外と低いことに驚くかもしれません。治療関係がよければ治療に対する期待も高くなると思われるので、(2)と(3)の因子は関連が深く、両者を合わせると効果の半数近くを占めるということになります。それだけ、よい関係性を作ることがが重要だということで、これが心理療法の「共通要因」となるのです。

多くの心理療法に共通すると考えられている要因は、次のようなものです(『ヒルガードの心理学』)。

(1)温かく信頼できる対人関係

(2)安心と支持

(3)脱感作

(4)適応的反応の強化

(5)理解または洞察

信頼できて、安心する、支えられると感じることができるような人間関係がまず第一の共通要因ということです。(3)の「脱感作」とは、特定の対象に対する不安や恐怖への慣れを表す行動療法の用語ですが、気がかりなことについて話しているうちに徐々に不安がほどけていくということは、どんな心理療法にも共通していると考えられます。

安心できて支えられていると感じると、人は勇気をもってチャレンジすることもできるようになります。「適応的反応の強化」とは、クライエントさんががんばってチャレンジしたことを、カウンセラーが応援する、といったイメージでしょうか。

行動面でのチャレンジだけでなく、これまで目を向けていなかった自分の体験や感情に触れることも、ひとつのチャレンジです。それによって、自己理解や洞察が深まるということも、共通要因となります。

心理療法の統合

その後の研究は、特定の疾患に対してどのような介入法がより効果的かといった方向に再び向かっています。アメリカ心理学会(APA)のガイドラインでは、十分に確立された治療法として、たとえばパニック障害に対する認知行動療法であるとか、社会不安障害に対する暴露療法、うつ病に対する対人関係療法などが挙げられています。

大きな流れとしては、学派間の優劣というよりは、疾患や困難に応じて、適切なアプローチを提供するという、より統合的/折衷的な視点が重視されるようになってきたといえます。(ただ、あれやこれやの技法や知識の寄せ集め、というのはよくないんじゃないだろうか、と個人的には思います。カウンセラーの教育や成長という視点から考えたら、まずは軸となるアプローチにコミットするということも必要でしょう)。

カウンセリングで得られることは?

効果研究では、カウンセリングを受けることは効果やメリットがあることが示されてきました。では、個々のカウンセリングや心理療法では、具体的にはどのような結果が得られるのでしょうか?

これまで私たちがお会いしてきた方々の変化を見ていると、次のような結果を挙げることができると思います(もちろん個人差はあります)。

(1)荷下ろし、カタルシス

ひとつには荷下ろし効果です。カタルシスとも呼ばれます(もともとギリシャ悲劇などで”精神の浄化”を意味する言葉だったようです)。それまで誰にも打ち明けられずに1人でしょっていた荷物をいったんおろして一休みするだけで、また歩き出す力と勇気を取り戻される方も多いのです。

(2)問題の整理

問題やこじれた関係が整理されるということも一般的な効果です。言葉や、箱庭などのイメージで表現することで、混乱していた状況を少し離れて眺めることができるようになったり、あるいは抱えておきやすくなります。

(3)対処と問題解決

問題や関係を眺めることができると、そうした事態に対処しやすくなりますし、また問題解決や決断を行ないやすくなります。また、すれちがったり、こじれていた人間関係が修復されることで、問題が解決したり、精神疾患が回復することも多いのです。

(4)洞察と自己肯定感

自分をふりかえることで、自身の感情や価値観が見えやすくなります。また、自分を受容できるようになると、自己肯定感や自己一致を得やすくなると思います。自分の考え方や価値観が分かると、それが極端だったり、現実ばなれしているときには、現実と折り合いがつくように調整しやすくなります。また、自分が何を大切に生きていきたいかがはっきりすると、人生に関する指針や地図を手に入れることができます。

 カウンセリングの副作用

アニメで見る心理療法でも書いたのですが、効果があるものは、当然副作用もあります。では、カウンセリングの「副作用」としてはどのようなことが考えられるでしょうか?

話すことで、余計に混乱してしまうような病態の場合は、カウンセリングは適していないと言えます。また、ある程度の時間(50分程度)対話をするということは、けっこうなエネルギーのいることですので、あまりに活力がないときにはカウンセリングは負担になることもあります。

対人関係が混乱しやすい人は、カウンセリングでも同じような関係になりやすいと思われます。依存しすぎたり、あるいは不安や敵意が大きくなりすぎることもあります。そうした感情を見つめて抱えておけるくらいのゆとりがあれば、カウンセリングのメリットもあるでしょうが、自分の感情にふりまわされすぎるとかえって混乱してしまうかもしれません。

決まった枠組みの中で自分自身のことを話していくということは、とても厳しいことでもあります。見たくない自分の感情や記憶に触れることだってあります。これは副作用というよりも、カウンセリングの中心的なテーマであるといった方がいいでしょう。

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かささぎ心理相談室のカウンセラーはいずれも医療や教育などの幅広い領域における経験の長い臨床心理士です。

カウンセラーの経歴や考え方については、カウンセラーの紹介をご覧下さい。複数名の臨床心理士が在籍していますので、ご本人とご家族のカウンセリングを並行して行なうことも可能です。また、「カウンセラーと合わないと感じる」「他のカウンセラーに交代してほしい」といったご要望に応えることもできます。もちろん、「どう接したらいいか」といったご家族の相談も承っています。

カウンセリングルームは、兵庫県芦屋市のJR芦屋駅から徒歩3分ほどのところにあります。神戸・三宮方面、大阪・尼崎・西宮方面からもアクセスしやすい場所です。

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【参考文献】

H.J.アイゼンク著/宮内勝他訳『精神分析に別れを告げよう―フロイト帝国の衰退と没落』批評社、1998年

ジェローム・D・フランク,ジュリア・B・フランク著/杉原保史訳『説得と治療:心理療法の共通要因』金剛出版、2007年

ミック・クーパー著/清水幹夫他訳『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究ークライアントにとって何が最も役に立つのか』岩崎学術出版社、2012年

Rosenzweig, S.(1936)Some implicit common factors in diverse methods of psychotherapy: “at last the Dodo said,‘Everybody has won and all must have prizes.’”American Journal of Orthopsychiatry,6, 412-415.

Lambert, M. (1992) Psychotherapy Outcome Research: Implications for Integrative and Eclectic Therapists. In Handbook of Psychotherapy Integration, (Eds) Goldfried, M. & Norcross, J., Basic Books, pp. 94-129.

Chambless et al.(1996) An Update on Empirically Validated Therapies.Clinical Psychologist, 49, 5-18

 

アリスとドードー鳥
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