神戸・芦屋・西宮のカウンセリング・かささぎ心理相談室|臨床心理士
神戸・芦屋・西宮のカウンセリング・かささぎ心理相談室|臨床心理士

強迫性障害の養生

強迫性障害(OCD)とは

強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder=OCD)とは、自分でコントロールできない嫌な考えやイメージ(強迫観念と呼ばれます)が頭から離れなくなり、それをふりはらうためにさまざまな強迫行為をおこなうために、日常生活がうまくいかなくなってしまうような不安障害です。

以前は、強迫神経症とも呼ばれていました。10代から20代の若い時期に発症することが多く、およそ100人に2、3人がこの病気にかかるということです。

アメリカの実業家で大富豪だったハワード・ヒューズは、細菌をひどく恐れるという強迫性障害を患っていました。晩年には、買収したホテルの最上階にあるスイートルームを完全に除菌し、その部屋からほとんど外出しなかったと言われています。いったん手を洗い始めると、血が出るまでやめられなかったため、手洗いや入浴ができなくなってしまい、彼の身体は垢だらけだったそうです。マーティン・スコセッシ監督が映画『アビエイター』(レオナルド・ディカプリオ主演)でヒューズの生涯を描いています。

また、サッカーのデイヴィッド・ベッカム選手も、自身が強迫性障害であることをメディアに告白し、「僕は強迫性障害で、なんでもまっすぐに並んでいないと気がすまないし、なんでもペアになっていないと気がすまない」と語っています。

ジャック・ニコルソンが主演した映画『恋愛小説家』では、偏屈で極度の潔癖症の作家が主人公でした。主人公のメルビンは、恋愛小説ばかりを書く売れっこ作家ですが、自身は一度使った石鹸はゴミ箱に捨てるし、人や動物とふれることを極端に恐れて避ける強迫性障害をもっています。町にどうしても出ないといけないときには、人々に「触るな!」と怒鳴りながら、ブロックのヘリを踏まないようにぴょんぴょんと歩くのです(ヘリを踏んだらよくないことが起きる、と思ってしまう強迫観念の影響でしょう)。そんな生活なので、とてもとても、恋愛どころではないわけですね。

映画と強迫性障害

『恋愛小説家』

そのメルビンが、いきつけのレストランのウェイトレスとの恋に落ちて、それまで強迫によって守っていた生活が揺れ始めて・・・といったストーリーでした。

強迫性障害のいくつかのタイプ

強迫性障害は、強迫観念が浮かぶこととそれを打ち消そうとして強迫行為や儀式をすることが共通していますが、いくつかのサブタイプにわけることができます。溜め込みや収集癖が中心となる人もいれば、不潔恐怖や洗浄強迫が表に出る人もいます。「カギを閉め忘れたかも」「コンロの火を消したかな」と何度も確かめないと気がすまない確認強迫や、「縁起の悪いことが起こるのではないか」「災いがふりかかるのでは」「感染症などの病気になるのでは」「すれ違った人を傷つけていないか」といったことが気になったり、物の位置や数などがすべてきっちりとそろっていないと嫌で嫌でしかたがないといった不完全恐怖が見られることもあります。

「強迫スペクトラム障害」という言い方もあり(スペクトラムとは「連続体」を意味する言葉です)、摂食障害やチック障害、抜毛症、心気症、強迫性パーソナリティ障害なども、強迫性障害となんらかの関連があると考えられています。

また、パニック障害や社会不安障害、うつ病などの精神疾患や、アスペルガーやADHDなどの発達障害が併存していることもあります。

不安と強迫観念

強迫性障害は、不安障害のひとつとして分類されていたことからもわかるように「不安」が中心となる障害です(1)。

では、不安とは何でしょうか? 「高所恐怖症」といった言葉もありますが、不安と恐怖の違いはどこにあるのでしょうか?

一般的には、「恐怖」という場合には、その対象ははっきりしていることが多いのです。「高いところが怖い」「尖ったものが恐ろしい」「犬が怖くてしかたがない」あるいは「対人恐怖」といったように、恐怖の対象は明確です。

一方で、「不安」は、もっと漠然としています。

進化という視点で見れば、不安はおそらくは、生物の「警戒信号」としての役割をもっていたのだと考えられます。ジャングルに住む猿が「なんとなく不安」に感じて目を凝らして見たら、木の陰にジャガーが隠れているのを発見した、といった例を挙げることができます。

適切に「不安」を感じることができないと、ジャガーに食べられてしまいますので、不安は生存のために役に立っているわけですね。環境の、かすかな兆候をとらえて警戒することが、不安の本質としてあるのです。

ところが、強迫性障害の場合は、不安や確認が過度になりすぎて、かえって適応できなくなってしまいます。

「うっかり人の物を触って、恐ろしい病気に感染したらどうしよう」

「自分の手についたばい菌が、家族や友達に広がってしまったら・・・」

「ガスコンロの火を消し忘れて、今頃、家が火事になっているんじゃないか」

こういったことが気になって頭から離れなくなってしまう。強迫観念として、執拗に思い浮かんで苦しい。あるいは、その不安を打ち消そうとして、過剰なまでに手洗いをしたり、確認を繰り返す。

ある特定の言葉や数字、模様など、それ自体はあまり意味がないはずなのに、頭から離れなくなってしまうこともあります(ある音楽が頭の中で何度も繰り返されて止まらなくなってしまうイヤーワームと呼ばれる現象も、強迫観念に似ています)。

強迫観念の引き金と強迫儀式の悪循環

「手が汚れてしまった」「コンロで火を使った」「財布からお金を取り出した」といったような日常生活のなかでの引き金をきっかけにして、強迫観念が引き起こされます。

そこで手洗いや確認などの強迫観念を打ち消すための儀式を行うと、いったんは不安は減るように感じます。

ところがしばらくするとまた気になってくる。

打ち消すために確認を行う。

こうしたことを繰り返していると、強迫観念はだんだん大きくなってしまうのです。それだけでなく、強迫観念の対象も広がってしまい、強迫儀式も極端なものになっていきます。

強迫性障害と性格

「完璧主義と強迫性障害って違うんですか?」

「真面目すぎる人がなる病気?」

といった質問を受けることがありますが、かならずしも「完璧主義が強迫性障害の原因になる」とは言えないようです。環境や人間関係などの社会的な要因とストレスや性格などの心理面の要因、そして気質や他の病気の影響などの身体的要因などが相互に関係して強迫性障害を発症する、と捉えるほうが正しいでしょう。

遺伝子が100%一致している一卵性双生児の場合、片方が強迫性障害であるとき、もう一人も同じ病気をもつ確率は約70%だと言われています。ということなので、もともともっている気質という面も確かに関与しているのですが、「症状」が出るかどうかは、環境や状況の影響も大きいのです。

また、完璧主義やこだわりがあるからといって、強迫性障害であるとも言えません。こだわりや確認などによって、日常生活に支障があり、本人も大きな苦痛を感じているときに、強迫性障害と診断される可能性が大きくなると思われます。

強迫性障害の克服にあたって、性格や考え方の癖(「完全にしなくちゃ大失敗だ」など)を自覚し、少し修正できるようになると、症状をやわらげるのに役に立つことがあります。

強迫性障害のカウンセリング

強迫性障害に対する薬物療法としては、抗うつ薬や抗不安薬が用いられることが多いと思われます。

薬物療法と並行してカウンセリング/心理療法が行なわれることもあります。歴史的には、フロイトが強迫神経症の患者さんの精神分析治療の症例報告を行っています。有名な「ねずみ男」の症例は、「恋人や父親に悪いことが起こるのではないか」という強迫観念に悩まされる青年でした。

強迫性障害の心理療法としては1960年代くらいまでは精神分析が中心でしたが、その後、認知療法や行動療法などが行なわれるようになってきました。

「暴露/反応妨害法」という行動療法の技法が、強迫症状に大きな効果があることが研究で確かめられています。

これは、あえて不安になるような状況や刺激に「暴露」して不安を高め、儀式的行動によって不安を緩和しないように「反応妨害」する方法です。

不安を「なんとかしよう」とする対処自体が強迫症状を生み出すという悪循環を断ち切るために、あえて不安刺激に触れるのです。

森田療法でいう「あるがまま」といった教えも、この悪循環に陥るのをふせぐことに役に立つでしょう。不安なら、不安のままでいるということです。

精神分析をベースにした強迫性障害の支持的・表現的な精神療法について論じている成田善弘先生は、患者さんに説明することとして次のように書いています。

不安・恐怖に対してただちに対処行動をとる(たとえば不潔恐怖に対してただちに手を洗う)のでなく、不安を心の一隅に容れておくように。たとえば青い空が白い雲を浮かべるように、心に不安を浮かべておくように。それを繰り返すうちに心の容器が大きくなって、しだいに不安を容れておけるようになる。すぐに対処行動に訴えていては、いつまでも心の容器が小さいままにとどまり、不安を抱えておけるようにならない。(成田善弘「強迫症者の養生」『心と身体の精神療法』金剛出版、一九九六年、145頁)

「心の容器」や「青空」という喩えは、強迫性障害をもつ方に伝わりやすいので、病院で患者さんに会うときにときどき使わせていただいています。

不安を容れる心の容器が少しずつ大きくなってきて、強迫症状が少し和らいだころに、自身のパーソナリティ特徴や生きていくうえでの大きな課題やテーマなどがカウンセリングで取り上げられることがあります。

先にも書いたように、「完璧主義だから」強迫性障害になるというわけではないのですが、完璧主義のいいところを活かしながら、マイナス面を少なくできると、強迫症状も緩和されるでしょう。

成田先生は、強迫性障害の患者さんの「養生」として、次のようなことを勧めています。

身体の病気やケガをすることも、強迫症の養生としては有意義なことがあるとも書かれていましたが(強迫症者は、「やすめない」人が多いので、身体的な理由でもやすむ機会がもてるといいという意味です)、こちらは無理に勧めるというわけにはいきませんね。

映画『恋愛小説家』の主人公メルビンは、恋愛という不確実で不安になるような状況に「思い切って」飛び込み、他者へのいたわりや愛情を育むことで、いつのまにか潔癖性がやわらいでいったのでした。

 

 

(1)DSM-Ⅴ(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、強迫性障害は不安障害から独立した「強迫症および関連症群」という新たなカテゴリーに位置づけられました。

(2)『図解 やさしくわかる強迫性障害』(原井弘明、岡嶋美代著、ナツメ社、2012年)

(3)『心と身体の精神療法』(成田善弘、金剛出版、一九九六年)

 

***

神戸・芦屋・西宮のカウンセリングルーム「かささぎ心理相談室」は、JR芦屋駅から徒歩3分のところにあります。神戸三宮方面からは電車で10分、西宮、尼崎方面からも10~15分ほどと、アクセスしやすいカウンセリングルームです。明石市や宝塚市から来ていただくこともあります。

医療や教育などの経験の長い臨床心理士が共同経営している心理相談室です。メンタルヘルスの問題から家族や人間関係の悩みまで、適切にサポートいたします。

 


Scroll Up