認知行動療法について
「そちらでは認知行動療法はやっていますか?」
といった問い合わせを受けることがあります。
うつ病に関するテレビ番組や、あるいは新聞などで「認知行動療法(CBT)」が取り上げられることが増えてきたからだと思います。「うつ病の治療に最もエビデンスがある」と聞いて関心をもった人もいるでしょう。
「うちは認知行動療法が専門というわけではありませんが、ご希望があれば、そのような方法でお手伝いすることもできると思います。でも、ぜひ認知行動療法の専門家の治療を受けたいということでしたら、他をご紹介しますけれど・・・」
たいていはこんなふうに答えています。
あるいは、「認知行動療法に、どのようなことを期待されていますか?」
と尋ねてみたら、「よくは知らないのですが、テレビでうつ病に効果があると言っていたので」といったお返事が返ってくることもあります。
そういうときは、認知行動療法について、そしてかささぎ心理相談室のカウンセリングについてご説明して、どうするかを選んでいただきます。
「私たちのカウンセリングは、ふだんあまり意識されていない心の深いところの動きに注目しながら、来談される方の心や生き方がよりバランスのとれたものになるようお手伝いすることを目指しています。
症状や問題はただなくなればいいというものではなくて、もしかしたらその人が成長していく可能性が秘められているのかもしれないととらえています。そして、より豊かで個性が活かされた人生を生きるためのサポートができればと思っています。
認知行動療法や他の心理療法の考え方や方法を借りることもありますが、基本的な方向性はこういったものです」
こうお伝えすることもあります。
精神科の病院でも心理士として長く働いていると、お医者さんから「この患者さんに認知行動療法をしてほしい」と依頼されることが増えてきました。
認知行動療法には、コラム法などの便利なツールがたくさんあるので、患者さんの症状や性格にフィットすると、短期間でいい効果が得られることが多いと感じます。
でも個々のツールや手法よりも、お互いが共同研究者のような間柄になる対話方法や、セッションを構造化して共有しやすくするといった基本的な態度の方が認知行動療法の本質なのかなという印象を持っています。
マインドフルネスを初めとして、新しいアプローチや考え方をどんどん取り入れて、エビデンス(科学的な根拠)という土俵に乗せて統合していこうといった動きも、認知行動療法を中心に行なわれています。
このあたり、明治に講道館柔道ができて古流を呑み込んでいった流れと少し似ているんじゃないかと勝手に思っています。嘉納治五郎がさまざまな古流柔術の技を取り入れながら、近代的な「理」で統合しようとしたようなことを、認知行動療法もしようとしているのではないでしょうか(だって認知療法も行動療法も、マインドフルネスもいっしょにしちゃってるんですよ)。
精神分析とかユング派の心理療法は古流の立場に近いので、認知行動療法をあまりよく思わない先生もおられます。
私たちかささぎ心理相談室のカウンセラーは、ユング派の先生に学ぶ機会が多かったので、やはりベースにあるのは古くからの(といったってせいぜい100年ちょっとですね)深層心理学的な観点です。
おそらくどちらの流儀にも、良いところ、得意なところがあって、クライエントさんによっても向き不向きがあるのだと思います。
たとえば症状や問題がはっきりしていて、それを改善したいというときには、認知行動療法が効果があるでしょう。活動や思考・感情の記録など「ホームワーク」が用いられることが多いので、課題にきちんと取り組むことが求められます。「真面目、几帳面、完全主義」といった性格(メランコリー性格と呼ばれています)の典型的なうつ病の方には、「自由連想でお話しください」と言われるよりはずいぶん取り組みやすいようです。だからこそ、最初はうつ病の治療として認知行動療法のエビデンスが積まれてきたのでしょうね。
逆に、「なぜか生きづらい」とか「人間関係のもつれを解きたい」「人生をふりかえって、これからどう生きていくかを考えたい」といった方には、深層心理学的な心理療法の方が適しているでしょう。ユングが「人生の午後三時」と呼んだような、ライフサイクルの中盤から後半にかけての生き方に関する悩みは、セッションを構造化したり課題や対象を限定するよりは、じっくりと自分と向き合うほうが適切でしょう。
*認知行動療法の流れでも、この頃は「スキーマ療法」といったより深いレベルの苦しみや生きづらさを解消するためのアプローチが発展してきています。
認知行動療法専門ではありませんが、それでもよければかささぎ心理相談室へどうぞ。