「引きこもり」とカウンセリング

スクールカウンセラーとして働いている中学校や高校では、いわゆる「不登校」の若者やその保護者と会うことがしばしばあります。

また、病院でも「長く引きこもっていた」という方のカウンセリングをすることがあります。10年以上、場合によっては30年近く引きこもっていたという方もおられるのです。

引きこもりからの回復には、カウンセリングだけでなく、どこかで社会との接点をもつ必要があります。そうした意味では、グループなどの社会集団による支援が効果的です。しかし、複数の人間とかかわることへの不安や恐れが強い人も多いので、カウンセリングはそこを橋渡ししたり、支えるような役割をもつことができると思われます。また、ご本人が外に出れないときに、家族がカウンセラーなどに相談することで、家族関係が変化して事態が好転することもあります。

引きこもりとは

厚生労働省では、引きこもりについて次のように定義しています。

さまざまな要因によって自宅以外での生活の場が、長期にわたって失われている状態で、以下の2つの条件を6カ月以上満たしているもの
1)仕事や学校へ行かず自宅を中心とした生活を送っている
2)家族以外の人とほとんど交流しない
注:統合失調症や中等度以上の精神遅滞、身体疾患を除く
(厚生労働省ひきこもり対応ガイドライン 2003)

引きこもりは、状態像を指す言葉ですので、なにか単一の病気や障害というわけではありません。いじめや失業などの要因が大きい場合もありますし、家族関係やご本人の性格が影響していることもあります。また、身体的・精神的な病気や失調がきっかけとなってひきこもることもよく見られます。

さまざまな要因によって、社会的な参加が少なくなり、仕事をするとか学校に行くといった自宅以外での生活が非常に乏しくなっている状態ということが「引きこもり」の人に共通している特徴です。

日本には「引きこもり」の人は、ときどき外出するくらいの「準」引きこもりも含むと70万人近くいると推定されています(内閣府による調査)。

ひきこもりの状態にある人の6割は男性です。多くは10代~20代のころに何かをきっかけに閉じこもるようになり、そのまま何年かこもって過ごします。

引きこもりの高年齢化・長期化が問題になることがあるのをみてもわかるように、10年以上も引きこもりを続けている人たちもいます。

引きこもりが長期化すると、就職や就学などの社会復帰がいっそう困難になり、また、生活を支える親世代の高齢化によって問題が深刻になります。

引きこもりの症状

ひきこもり状態の人によく見られる症状の一つには「対人恐怖」(社会不安障害とも呼ばれています)があります。「人の目が気になる」「同世代の人たちが怖い」「年長者を見ると緊張する」といったことです。「自分の体がイヤな匂いをして人に迷惑をかけているんじゃないか」と恐れる自己臭恐怖や、「自分の容姿が醜い」と信じ込む醜貌恐怖が見られることもあります。

また、過度な手洗いや確認などの無意味な行為や観念にこだわって何度も繰り返してしまう強迫症状や、昼夜逆転、摂食障害、不眠、抑うつ、無気力、家庭内暴力など、多様な症状が現れることも考えられます。

引きこもりと日本社会

『社会的ひきこもり―終わらない思春期』(斎藤環、PHP新書)という本が出版されたのが1998年でした。この本では、社会的ひきこもりが思春期の問題であり、現代の日本社会や日本の教育システムの問題と深く関連していることが指摘されています。現代の日本の教育では、子どもが「万能であることをあきらめる」という機会が少ないため、他人と関わるための社会的成熟が得られにくいとのことです。

「あきらめる」というか、自分とうまく折り合いをつけることができないまま青年期になると、社会と接したときに傷ついたり、挫折しやすくなります。その結果、他者との関わりを回避して引きこもるということにつながるのです。

また、引きこもりが社会的な問題としてマスコミなどで大きく取り上げられ始めたのは、バブルが崩壊し、日本の経済的成長が終わりを迎えた時代と重なっています。

努力してがんばれば報われるという社会ではなくなってきたということが、なおさら若者が社会に出て行くことを困難にしていると思われます。

引きこもりとカウンセリング

家から一歩も出ない、あるいは自室にこもって家族とさえ接点がもてないといった場合には、当然、カウンセリングに相談に来ることも困難です。

不登校や引きこもりのケースで、カウンセラーがまず出会うのは、ご家族(多くは母親)であることが多いといえます。

ご本人の様子や生活、家族との関係を聞きながら、少しずつ家族との良い接点を増やそうと模索することになるでしょう。ご家族自身も、傷ついていたり、自信を失っていることがありますので、まずは家族が元気を回復することも大切です。

引きこもりの始まり、あるいは一歩外に出始めたときに、ご本人とカウンセラーが出会うこともあります(1)。そのときは、他者と関わることへの不安や恐れ、これからの不安、孤独感、過去の傷つき体験などを丁寧にうかがいながら、現実的な目標を見つけて勇気をもって歩いていけるようサポートします。

カウンセラーとの関わりが、家族以外の「外の人」とのしばらくぶりの出会いとなることも多いので、どういうかたちで最初のコンタクトをもつかは重要です。

カウンセラーも家の外の「他人」ですので、不安や緊張があって当然でしょう。

そのような「他人」と少しずつ対話を重ねていくことで、対人不安や緊張がほどけていくでしょうし、また、意欲や希望を取り戻していくことにつながると考えられます。

そうやって徐々に自信をもてるようになると、どこかの時点で、たとえば習い事やアルバイト、自動車教習所といった社会的な活動に思い切って関わってみるということを選択される方が多いのです。

社会参加したらしたで、人間関係の不安や悩みはまた出てくるでしょうが、家族やカウンセラーなどのサポートがしっかりあれば、そうした悩みから学んだり、成長することもたくさんあります。

 

(1)電話を使ったカウンセリングや、メールやインターネット通話(スカイプなど)を利用したオンラインカウンセリングも徐々に出てきました。どれくらいの効果があるかはまだわからないこともありますが、今後、普及していくかもしれません。

*付記:かささぎ心理相談室でも、メールやZoomによるオンラインカウンセリングをご利用いただけるようになりました。

 

 

前の記事:
次の記事: