「死にたい」「消えたい」と感じたときに

カウンセリングに訪れる人たちに、しばしば「死にたい」あるいは「消えてしまいたい」と話す方がおられます。

本当に自殺を考えていて、何度も試みるという人もいれば、

「死んでしまいたいほど現実が辛い」いう気持ちが「死にたい」という表現になっている人もいます。

こうしてカウンセリングに来てくれているのだから、

「死にたい」気持ちで100%占められているというわけではなくて、

きっと「生きたい」「助けてほしい」といった思いもあるのだろうと信じながら、

来談者の一言一言や気持ちの揺れにていねいに触れるしかありません。

精神医学では「死にたい」という気持ちを「希死念慮」と呼びます。これは、うつ病の症状のひとつでもあります。

実際に自殺で亡くなる人の多くに、うつ病などの精神疾患があるとも推測されています。うつ病の診断基準に、「死について繰り返し考える」という項目があることからも、「死にたい」気持ちとうつ病は深く関連していることがわかります(もちろん、うつ病の他の心身の疾患や、経済的問題、人間関係の問題なども自殺と関連しています)。

うつ病の症状としての「死にたい」(希死念慮)は、病状によって変化するものです。うつがひどいときには頭の中は「死にたい」でいっぱいかもしれません。しかし、精神科などで適切な治療が行われたら、数ヶ月~半年ほどで症状が改善していくことが多いのです。そうすれば、「死にたい」気持ちも徐々に消えていくでしょう。

「この死にたいという気持ちはうつの症状だから、病気がよくなればなくなっていくだろう」と伝えること、知っておくことが大切です。

また、一般に希死念慮が強くなるのは、発病初期と回復期だと言われています。回復しかけてエネルギーが少し出てくると、かえって自殺について考えたり、自殺に関連する行動ができるようになるということもあるのです。

回復は直線的に進むものではなく、一進一退ですので、「せっかくよくなりかけたと思ったのにまた後戻りをした。このまま良くならないのではないか」と思ってしまいがちです。

「回復の時期こそ、気分の変動や体調の良し悪しの波があるものだ」

と思っておくのがよいようです。

「死にたい」気持ちを悪化させる要因は何でしょうか?

「孤立」「アルコール」「睡眠」などが挙げられます。

孤独な状況では、悲観的な考えがますます極端な方向に傾きます。自分や現実を冷静に見ることができなくなり、

「全か無か」

といった、認知療法で言うところの「認知の歪み」に陥りやすいのです。

アルコールは、うつ病を悪化させる大きな要因です。お酒を飲むと睡眠薬が効きにくくなりますし、眠りの質も低下します。また、酩酊すると、自分をコントロールすることが難しくなり、衝動的な自殺行動につながりやすいでしょう。

うつのときには、先のことを過度に心配したり、過去のことをくよくよと悔やんだりしがちです。「早くなんとかしないと手遅れになる」と気ばかり焦って、一人で問題を抱え込んでしまいやすいのです。

主治医やカウンセラー、家族、友人などに、自分の気持ちを言葉にして伝えることが大切です。

「死にたいと口に出して言うと、ほんの少しだけ気持ちが楽になって、あとちょっと生きてみようと思えるんです」

こんなふうに話す方もいます。

 

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