HSP・HSC(敏感すぎる人)のカウンセリング

近頃、来談される方で、「自分はHSPかもしれない」とおっしゃる方が増えてきたこともあり、HSP(Highly Sensitive Person)について少し書いてみます。

HSP・HSC(敏感な人)とは

 HSP(Highly Sensitive Person)とは、ユング派の心理療法家であるエレイン・N・アーロン(Elaine N.Aron)が提唱した言葉で、過敏な人、敏感すぎる人と訳されています。センシティブとは、「繊細」「感受性の強い」「感じやすい」といった意味を持つ言葉ですね。

 同じように、敏感な特性を持つ子どもたちを指す言葉として、「HSC(Highly Sensitive Child)」という用語も使われています。

 アーロンの『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』(原題は”THE HIGHTLY SENSITIVE PERSON”,1996)という本が訳されて、日本でもこの言葉が広がってきました。

 アーロン自身が、「ささいなことにすぐに動揺してしまう」特性を持っていて苦しんでいたとのことで、同じような特性・体質を持つ人と出会う中で、HSPという考えがまとまってきました。
 HSPの人たちは、たとえば他の人は気にしないような物音や光、匂いなどの刺激に対して敏感に、繊細に反応します。刺激によって疲れやすく、苦痛を体験しやすいのです。
HSPの概念は、精神医学的な診断ではなく、病気や障害とは異なる、体質や心理的な特性です。

 アーロンは、「敏感な神経」を持つ人は、人口の15〜20%と述べていますので、少数派ではあるものの、病気ではなく、正常な特性だと考えられます。

 じゃあわざわざHSPなんて言葉を作ることはないじゃないか、と思う人もいるかもしれません。

 でも、「神経質」「引っ込み思案」「臆病」といったレッテルを貼られやすかったこうした特性を持つ人たちが、「私には体質的に敏感・繊細なところがあるからなんだ」と自分を理解して、適切に対処したり、工夫しやすくなるといったメリットもあるとも考えられます。自分で自分のことを「弱い人間だ」「私だけうまくいかない」とネガティブに捉えていた人が、繊細さをうまく活用できるようになる、といったきっかけになることもあります。

 この頃、「私にはHSP的なところがあって・・・」「うちの子どもはとても敏感すぎるんです。HSCという言葉を聞いたんですけれど」といった話をうかがうことが増えてきたので、「敏感な人(敏感な子ども)」について少し書いてみます。

HSP・HSCの4つの特性「DOES」

 アーロンは、HSPの特性を大きく4つに分けて、頭文字をとって「DOES」(ダズ)と呼んでいます。

(1)処理の深さ(Depth of processing)

 生物は環境世界からさまざまな刺激を知覚していますが、その処理の仕方には個体差があります。一つ一つの刺激を深く、強く受け取って細かく扱うか、それとも多くの情報を広く浅く処理していくか、といった違いです。
 HSPの人は、感覚データを深く処理するため、同じ出来事に対しても、HSPでない人よりも長い時間をかけて感じたり、考えたりするのです。こうした反応は、ときには「慎重すぎる」「考えすぎ」と取られることもありますが、熟慮した方がいいこともありますよね。

(2)刺激を過剰に受けやすい(Overstimulated)

 人混みに出たり、普段と違う状況などで、神経が昂りやすい傾向があります。パーティなどの人の集まりでも、声や匂いなどの刺激で影響を受けやすく、疲れやすいのです。
 HSP以外にも、発達障害のある人や、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安障害など、精神科的な疾患を持った人たちも、「刺激を過剰に受けやすい」傾向がしばしば見られます。そういった状況を回避したり、感じすぎないようにノイズキャンセラー付きのヘッドホンなどで身を守る人もいます。ただ、すべての状況を避けていては、行動範囲がとても狭くなって、生活しにくくなってしまいます。

(3)感情の反応が強く、共感性が高い(Emotional reactivity and high Empathy)

 他人の感情や感覚などに対する反応が非常に高い、という特性です。落ち込んでいる人と接すると自分まで落ち込んでしまうし、イライラしている人が近くにいると影響を受けて落ち着かなくなってしまうといったことです。
 人に対して共感的に関わることができるので、対人関係によい影響をもたらすこともできます。しかし一方で、他人の浮き沈みに振り回されたり、嫌なことを拒否できずに負担が大きくなってしまうこともあります。こうした場合、自分と他人との間に適切な境界線を持つことが課題になります。
 HSPと似て、共感性の高い人を表す「エンパス(empath)」という言葉があります。HSPの中でも特に、他者の感情に対して敏感な人をエンパスと呼ぶようです。

(4)ささいな刺激も感じる(Sensitivity to Subtle stimuli)

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など、五感の敏感さがあるため、他の人が気づかないあるいは気にならないようなささいな刺激や変化にもひっかかりやすいといった特性です。眩しい、うるさい、匂いが気になる、味がおかしい、触れたところが気になる、と感じやすいのですね。
 特定の領域や感覚については敏感だけれど、他の領域や感覚はむしろ鈍感(低登録、と言います)、といった人も含まれています。
 発達障害傾向のある子どもの中には、「衣服のタグが首筋に当たるのが嫌」とか「給食でいくつもの食材がいっしょに煮込まれているのが苦手」「明朝体が読みにくい」といった人もいます。

*視覚過敏とフォントについては、子ども情報ステーションの「視覚過敏のチアキが苦手なテキストパターン12選!〜明朝体、影文字etc」という記事が参考になります。
https://kidsinfost.net/2015/11/22/hyperreactivity-8/

HSPのチェックリスト

アーロンのウェブサイト(日本語版)に、HSP/HSCのチェックリスト(セルフテスト)があります(『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』にも同じようなチェックリストが掲載されています)。

上にも書いたように、医学的な診断とはまた違ったものとして考える必要がありますが、自分の抱えている生きづらさに目鼻立ちをつけるきっかけにはなるかもしれません。

□感覚に強い刺激を受けると容易に圧倒されてしまう
□豊かな想像力を持ち、空想に耽りやすい
□すぐにびっくりする(仰天する)
□騒音に悩まされやすい
といった項目に、14項目以上あてはまったら、HSPの傾向があると判断されるとのことです。

心理テストとしての信頼性や妥当性がどれくらい確かめられているかについては、アーロンのサイトや本ではわからなかったので、日本語の文献を調べてみました。

高橋亜希(2016). Highly Sensitive Person Scale日本版(HSPS-J19)の作成 感情心理学研究 第23巻 第2号 68-77
(Takahashi, A. (2016). Development of Japanese version of the 19-item Highly Sensitive Person Scale (HSPS-J19). 感情心理学研究 第23巻 第2号 68-77. Japanese Journal of Research on Emotion.)

Aron & Aron (1997)によって作成されたHSPS(Highly Sensitive Person Scale )の日本語版を作成して、信頼性、妥当性を確かめたという研究です。

□競争場面や見られていると,緊張や同様のあまり,いつもの力を発
揮できなくなりますか?
□大きな音や雑然とした光景のような強い刺激がわずらわしいです
か?
□明るい光や強いにおい,ごわごわした布地,近くのサイレンの音な
どにゾッとしやすいですか?

といった質問項目から構成されています。HSPSは、

の3つの因子から成り立っており、これら3因子とパーソナリティの特性、あるいは精神的健康の関連を検討する研究が行われてきたとのことです。

3つの因子のうち「低感覚閾」とは、わずかな刺激に対する感受性を表しています。
2つ目の「易興奮性」は、内的・外的な刺激に圧倒されやすいかどうか、を捉える項目です。
3つ目の「美的感受性」は、美的な経験やポジティブな刺激に、よい影響を受けやすいかどうかを反映しています。

HSCのチェックリスト

中学生用感覚感受性尺度(SSSI)作成の試み」(日本心理学会第19回大会)では、中学生を対象に標準化された感覚感受性尺度が発表されています。

HSPの生きづらさとカウンセリング

 HSPもエンパスも、精神疾患や逸脱を表す概念ではありません。そういう意味では「病気ではない」ので、治療も必要ないということになります。とはいえ、HSP傾向のある人たちは、感受性が強すぎて疲れやすかったり、人間関係で気を回しすぎて悩んでしまうといったことも多いでしょう。
 感受性が強いということは、他人や場の状況からのインプットが多いということで、それだけ周りに影響されやすいということにもなります。自他の境界線が曖昧になりやすい、といった側面も持っているかもしれません。
 対人関係で振り回されたり、傷ついたりしやすい、といったこともあるわけです。他の人がどう感じているかに敏感、ということは、優れた共感性を持つということでもある一方で、人の感情に振り回されることも多いということです。それが、HSPの人の苦しさや生きづらさにつながっているのですね。
 人間関係や、生活上の苦しさが、自分では抱えきれなくなったときに、カウンセリングにやってこられる方もいます。
 人間関係や仕事で、適切な境界線(バウンダリー)を持つことを学んだり、傷つきやトラウマに対して適切な手当てをしていくことは、HSPの人の生きづらさの改善にもつながることだと思います。

*HSPの克服方法

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