臨床心理士とは

臨床心理士とは

「カウンセラーにはどんな資格があるんですか?」

「臨床心理士ってどんな資格ですか?」

「カウンセラーになりたいのですが、どうすればいいでしょう」

といった質問がときどきありますので、こちらにも書いておきます。

カウンセラーの「資格」でも触れましたが、2015年の秋に国会で「公認心理師法案」が可決したことで、日本では初めてカウンセラーの国家資格が生まれました。実際に公認心理師の国家試験が実施されるのは平成30年ごろになりそうです()。

現状では、民間資格の「臨床心理士」が、病院の心理士やスクールカウンセラーとして働いていることが多いので、この資格について説明します。

臨床心理士とは、臨床心理学にもとづく知識や技術によって、「こころ」の問題をサポートしたり、あるいは研究をする専門家として定義されています。

臨床心理士資格認定協会のサイトには、医師は「病気を治す」専門家で、教師は学問や「人間のあるべき姿」を教える専門家だとし、それらと比較して臨床心理士の専門性について次のように書かれています。

臨床心理士は、人(クライエント)にかかわり、人(クライエント)に影響を与える専門家です。しかし、医師や教師と異なることは、あくまでもクライエント自身の固有な、いわばクライエントの数だけある、多種多様な価値観を尊重しつつ、その人の自己実現をお手伝いしようとする専門家なのです。

「多種多様な価値観を尊重」とか「自己実現をお手伝い」と言うとなんだか聞こえがいいですが、これは本当に難しいことだと思っています。

臨床心理士も、病院や学校といった組織のなかで、あるいは社会のなかで働いているからにはその制約を受けます。

学校で不登校の児童生徒とのカウンセリングをするのであれば、どうしても「再登校を目指す」とか「進路を決める」といったことを意識します。

でも同時に、「この時点での再登校が本当にこの子にとっていいことなのか?」といったことも考えるわけです。

表向き「適応」しているよりも、あるいは「症状」や「問題」を出しているほうが望ましいのかもしれない、といった視点「も」もっていないと「こころ」という複雑でダイナミックな現象にうまくアプローチできないからです。

これまでの経緯

1988年に臨床心理士資格認定制度が始まり、1600名ほどの臨床心理士が誕生しました。翌年1989年には日本臨床心理士会が設立されています(初代会長は河合隼雄先生)。

1990年代には厚労省の研究班によって臨床心理技術者の国家資格が検討され始めましたが、臨床心理士の行う支援が「医行為」であるかどうかなどをめぐって対立し、国家資格にはなりませんでした。

1997年ごろに精神保健福祉士が先に国家資格になり、同僚たちが試験勉強を始めたのを記憶しています。

同じころ(1996年)に、臨床心理士の指定大学院制度が始まり、現在では160校前後になっています。公認心理士法案が可決してから、指定校を辞めてしまった大学院もあるので、もう少し数は減っているのかもしれません。

旧文部省によるスクールカウンセラー事業が始まったのが1995年ごろからで、そのときに資格要件として「臨床心理士」が挙げられました。

それ以降、厚労省や警察庁、防衛相などで心理職の求人がある際には、臨床心理士が資格要件となることが一般的になっていきます。

臨床心理士の専門的業務

ちょっと脱線してしまいました。

続いて、臨床心理士がどんなことをその専門的な仕事としているかということを取り上げます。

臨床心理査定

医師が病院で行なうのは「診断」(diagnosis)と治療ですが、臨床心理士が行なう見立ては「心理査定」(psychological assessment)と呼ばれています。知能検査や性格検査などのさまざまな心理テストや面接を通じて、その人の個性や苦しみ、心理的な課題などを明らかにします。そして、心の問題で悩む人たちをどのように援助するといいかを探ります。

臨床心理面接

いわゆるカウンセリングや心理療法がこれにあたります。臨床心理士とクライエントの人間関係を通じて、またその人に適した技法を用いて、クライエントを支援します。精神分析、遊戯療法、クライエント中心療法、行動療法、家族療法、認知療法、ゲシュタルト療法といったさまざまなアプローチがあります。

臨床心理的地域援助

学校や地域、職場といったコミュニティに属する人々の心の支援を行なうのも臨床心理士の仕事のひとつです。たとえば企業や地域でストレスマネジメントの研修を行なったり、災害の後に相談活動に従事するといったことです。

調査・研究

上の3つに関する調査や研究も臨床心理士の専門業務とされています。カウンセリングには、アートとしての側面と科学としての側面があります(参考:カウンセリングと「猫の妙術」)。こころという不確かなことがらにアプローチするための、確かな足場として、基礎となる臨床心理的な調査や研究が重要なのです。

臨床心理士はどんなところで働いているか

さて、臨床心理士はどのようなところで仕事をしているのでしょうか?

代表的な活動領域をいくつか紹介します。

教育

学校や教育センター、さまざまな教育機関などで、児童生徒に対するカウンセリングや支援を行ないます。また、親の相談を受けたり、教師へのコンサルテーションを実施することもあります。上にも書いたようにスクールカウンセラー事業は1995年から始まり、現在は10000校以上の学校に配置されています。中学校が中心でしたが、小学校でもスクールカウンセラーが活動する機会が増えてきました。

また、高校や大学、あるいは幼稚園など、教育全般でカウンセラーが働いています。

医療

メンタルヘルスの問題で不適応に陥っている人や、身体的な病気・けがなどのある人への心理的な支援を行っています。心理テストやカウンセリング、あるいは集団精神療法などの活動も行うことがあります。

精神科、心療内科、小児科などの病院やクリニックなどで働いています。

福祉

福祉に関する領域で、心理的な援助を行います。子どもの発達、障害者支援、高齢者のサポートなど、対象はさまざまです。児童相談所や女性相談センター、老人福祉施設などが職場になります。

司法・矯正

非行や犯罪を犯した人を対象に、心理テストなどを使った調査や矯正のための面接などを行います。家庭裁判所や少年鑑別所、少年院、刑務所などが職域となります。

犯罪被害者支援

犯罪や事故・事件などの被害者のメンタルケアを行うカウンセラーもいます。兵庫県では「被害者支援センター」などでも臨床心理士が活動しています。

産業

企業の健康管理センターやハローワークなどで、カウンセリングやコンサルテーションなどの支援を行います。最近では、「ストレスチェック」に関わる人も増えてきたかもしれません。

私設臨床心理士

いわゆる「開業」している街のカウンセラーで、クライエントさんから相談料を直接いただくことで成り立っています。かささぎ心理相談室も、こ私設心理臨床に近い形態です(実際はかささぎ心理相談室は「LLP=有限責任事業組合」というかたちをとっています)。

公認心理師との関係とこれから

平成30年ごろに公認心理師の国家試験が実施されると、現在、臨床心理士として働いている人たちの多くも順次試験を受けていくことになるのだと思われます(個人的には、「ああいまさら試験勉強なんていやだよ」という気持ちも少しありますが、こればかりは仕方ありません)。産業カウンセラーや他の心理系の資格をもった人たちも受験するでしょう。また、「公認心理師はなくてもいい」と判断する人も少なからず出てくると予測されます。

数年すれば、大学生のときから公認心理師になるためのカリキュラムで勉強した人たちが資格を取るようになります。

心理職の求人の際の資格要件も、次第に公認心理師となっていくと思われます。

「日本のカウンセリングや心理臨床のレベルが下がるのではないか」あるいは「公認心理師が増えすぎて仕事がなくなるのでは」と懸念している人々もいますし、「医療分野では公認心理師によるカウンセリングに診療報酬がつくだろうから、国民にとっては益が多い」と考える人もいます。

「臨床心理士」という資格自体がどうなっていくのかも含めて、まだ未知数のことが多いのが現状です。

臨床心理士に出会うには

今のところ臨床心理士がもっともよく知られていて、「専門性の高い資格」とみなされていますが、「資格」はあくまで、カウンセラーを選ぶときの基準のひとつです。

「自分にあったカウンセラーはどうやって探せばいいのだろう」と考えておられる方は、相談先はどこ? 失敗しないカウンセラーの探し方、選び方も読んでみてください。

「臨床心理士」を探したいという方は、日本臨床心理士会による

臨床心理士に出会うには

というサイトで検索してみてください。

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神戸・芦屋・西宮のカウンセリングルーム「かささぎ心理相談室」は、医療や教育などの分野での経験が長い臨床心理士による心理相談室です。JR芦屋駅から徒歩3分、神戸三ノ宮方面、西宮・尼崎方面からそれぞれ電車で10分少しと、アクセスしやすいところにあります。

 

 

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