神戸・芦屋・西宮のカウンセリング・かささぎ心理相談室|臨床心理士
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「結ぼれる」-カウンセリングとことば

カウンセリングのときにはできるだけ、大和言葉や擬音語・擬態語(オノマトペ)を適切に使いたいと思っています。

「自我」とか「葛藤」、「自己一致」といった漢語や、「アイデンティティ」のような外来語(「カウンセリング」もそうですね)は、やはり頭でっかちになりやすいからです。

また、漢字やカタカナばかり使っているときには、「知性化」されすぎて、実感や実体験から離れてしまっていることが多いのです(「知性化」ではなくて「さかしら」と言い換えましょう)。

漢語や外来語と比べると、大和言葉やオノマトペは「はっきりと言葉になる前の感覚的な体験」を表しやすいといえるでしょう。

というような思いで、『日本の大和言葉を美しく話す』(1)という本をめくってみました。

結ぼれる

気になったのが「結ぼれる」という言葉。

「糸がからんで結び目ができる」とか、「結ばれてほどけにくくなる」さまを表していて、そこから転じて「鬱屈する」という意味としても用いられるのだそうです。心の糸がからまってほどけなくなる状態なんですね。

名詞で「結ぼれ」と言うと、「鬱屈」「憂うつ」といった意味となります。

「いまは心が結ぼれているから、ゆっくりとからまった糸を解こう」と思いやすいのが、このことばのいいところだと書かれていました。

確かに「鬱」と書くと字面からも身動きとれなさそうですが、「結ぼれてる」だと印象もずいぶん違います。

辞書を引くと(実際には「検索」したのですが、検索に対応する大和言葉ってなんでしょうね。「ぐぐる」じゃなさそうです。「さぐる」ですかね)、「結ぼれる」は、「露などがかたまって玉になる。凝固する」「関係がつく。縁につながる」(三省堂『大辞林』)といった意味でも使われます。

レインの『結ぼれ』

心理学や精神医学の関係者なら、R.D.レインの『結ぼれ』(2)という詩集を連想した人もおられるのではないでしょうか(原題は”KNOTS”)。レインは「反精神医学」を掲げたことで知られている精神科医です。『好き?好き?大好き?』などの詩集をいくつか出していて、『結ぼれ』もその一冊。

 

結ぼれ【新装版】(表紙)

 

ジャックには気になる、ジルが彼の母に似ているのが

ジルには気になる、ジャックが彼女の母に似ているのが。

ジャックには気になる
《あの人はわたしの母に似ているわ》とジルが思うのが
そして、これも気になる
《彼女は僕の母に似ている》とジャックが思うのが
ジルには気になる、ということが

こんなふうに、『結ぼれ』に登場するジャックとジルは、相手の思っていることを推察しようとして、自意識のなかでどうどうめぐりでこんがらがっていきます。

《まさしくぼくに食べられたいという彼女のねがいによって
彼女はぼくを食べているのだ》と、彼は感ずる

そもそもの初めには
ばりばり食べたいまたばりばり食べられたいと望んでいた二人が
いまや、ばりばり食べておりまたばりばり食べられている

ばりばり食べられたいという彼女の食いつくさんばかりの欲望によって
彼がばりばり食べられているということによって、彼女はばりばり食べられている
彼が自分をばりばり食べてくれないということによって
彼女がばりばり食べられているということによって彼はばりばり食べられている

自分がばりばり食べられはせぬかという恐怖によって
彼はばりばり食べられている
自分がばりばり食べられたいとの欲望によって
彼女はばりばり食べられている

こんな文章を読むと、こちらの頭の中までこんがらがって、結ぼれてきますね。

「食べる」とは、「食べてしまいたいほど愛おしい」といった表現があるように、愛情表現のひとつです。また、相手の「いいもの」を自分のうちに取り込みたい、ひとつになりたいという願いを反映しているのでしょう。「食べられたい」もまた然り。
「ばりばり」という擬音語からは、むさぼり喰うような貪欲さや、攻撃性も感じられます(3)。

このように『結ぼれ』には、自他の境界が失われてしまうほどの、とても親密なあるいは距離が近い間柄に起こる錯綜した人間関係が、繰り返し描かれています。

私たちはふだんは、こんなふうな「ややこしい」関係におちいらないように適度な境界を保って生活しています。いつもこうだと、大変だししんどいですよね。

でも、人との関わりが親密になってくると、こうした「結ぼれ」が表れてくることがあります。

それは、子ども時代の親や家族との関わりで抱え込んでしまった「結ぼれ」かもしれませんし、あるいは他の誰かとの関係で傷ついたことに由来する結ぼれということもあるでしょう。

いまの目の前の人との関わりと、過去の人間関係が重なって、結ぼれてしまうこともあるのです。確かにややこしくて大変ですが、それはかつての結ぼれをほどくチャンスでもあります。

 

【註】

(1)高橋こうじ『日本の大和言葉を美しく話す』東邦出版、2014年

(2)R.D.レイン『結ぼれ』村上光彦訳、みすず書房、1997年(新装版)

(3)精神分析で言うところの「口唇期サディズム」(不安や恐怖を与える母親を貪りたいといった欲求)などが連想されます。

 

結ぼれた心をほどくには、神戸・芦屋・西宮のカウンセリング「かささぎ心理相談室」をご利用ください。
医療や教育などの分野で20年近い経験を積んできた臨床心理士のカウンセリングルームです。


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