カサンドラ症候群ーアスペルガーの妻たち

古代ギリシャの哲学者プラトンは、人間というものはもともとは球体だったけれど、二つに別かれて生れ落ちてきた。だから、別れた半分を求めて結婚するのだと述べました。人間球体説と言うそうです。

じゃあ結婚したら、完全なる球体になるのかと思いきや、多くの場合、むしろ年が経つにつれてコミュニケーションのすれ違いや伝わらなさがはっきりしてくるという方が真実に近いかもしれません。

「結婚は、ハッピーエンディングではなくて、アンハッピービギニングだ」とは、亡くなった河合隼雄先生がよくおっしゃっていたことです。

ユングも「結婚は幸せなことというよりはむしろ試練だ」とどこかで書いていました。夫婦(外)関係については、わりと好きなことをしていたと思われるユングにとっても、「結婚は試練」と感じられたのですね。

ここ何年か、家族の問題で悩んでやってこられる女性が、「やっとわかりました。私の夫はアスペルガー症候群の特徴にぴったりと当てはまるんです!」と得心した表情で話すということを何度も経験しました。

アスペルガー症候群とその特徴

アスペルガー症候群(AS)とは、発達障害のひとつで、コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があり、人間関係がうまくいかないというものです。はっきりとした原因はまだわかっていないのですが、脳機能の発達に何らかの障害があると推測されています。

といった症状が中心で、いずれも仕事や家庭の人間関係にさまざまな影響を与えます。

日本でもよく使われているアメリカ精神医学会のマニュアル(DSM-5)には、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」としてまとめられています。

上にアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)の3つの症状を上げました。

コミュニケーションの障害

ひとつめの「コミュニケーションの障害」とは、あいまいな表現や比喩・皮肉といった、ことばの機微を読み取るのが苦手だということです。言われたことを文字通りに受け取ってしまったり、人を傷つけるような言い方をしてしまうことがあります。また、アイコンタクトや表情を読むのも苦手です。

対人関係の障害

相手の気持ちを理解することが苦手なため、その場の雰囲気や社会的な常識などを無視した言動を取りがちです。そのために人間関係にいろいろな問題が生じてくることがあります。

自分の発言が相手にどう受け取られるかということに無頓着だったり、うまく想像できないために、何も考えずに思ったままを発言して、相手を傷つけてしまうこともしばしばです。

特定の物事へのこだわりや興味

興味を持ったことには没頭してこだわる傾向があります。自分のルールや予定・手順に頑なにこだわり、それがうまくいかないと混乱してしまうこともあります。興味のあることへの集中力や記憶力は優れていることが多いでしょう。
 
こだわりは、仕事などでうまく活用できれば強みにもなりますが、おかまいなしに一方的に話し続けたり、周りが目に入らなくなったりすることで、問題が生じる場合もあります。
 

夫婦関係への影響

上に挙げたような症状は、家族などの近しい関係においては、よりいっそう影響を与えることが多いと思われます。
 
ここに書いたような特徴を読んで、もしかすると「そういう人はいっぱいいたよ」とおっしゃる方もおられるかもしれません。
 
人間関係やコミュニケーションは苦手だけれど、仕事に没頭していて稼ぎはいい、というお父さんも確かにたくさんいます。昔は、「仕事や遊びばかりで家にはいないお父さん」も普通だったのでしょう。でもだんだん核家族化してきて、父親も子育てや生活のやりくりに参加を求められるようになると、「使えない」「伝わらない」夫が問題となってくるのでしょう。
 
「うちの夫は本当に他人の気持ちがわからなくて」と愚痴を言っているくらいならいいのですが、コミュニケーションの障害やこだわりなどが、ドメスティック・バイオレンス(DV)やモラハラなどにつながる場合もあります。
 

カサンドラ症候群

「カサンドラ症候群」ということばは、精神医学や臨床心理学で正式に使われているものではありませんが、アスペルガー症候群の夫(妻の場合もあります)との関係で悩む人の体験を表しています。
 
アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)の配偶者を持つ人は、コミュニケーションの不調から自信を失ってしまい、さまざまな苦痛や困難を体験します。
 
カサンドラとは、ギリシャ神話のトロイの王女の名前です。彼女は太陽神アポロンに愛されて、予知能力を身につけます。アポロンに見捨てられる未来を予知してしまったカサンドラは、アポロンの愛を拒み、怒ったアポロンに呪いをかけられてしまいます。「カサンドラの予言は誰も信じない」という呪いのため、カサンドラのことばは誰からも信じてもらえなくなってしまうのです。
 
ギリシャ神話のカサンドラと似て、アスペルガーの配偶者とのコミュニケーション不全に悩む人は、その苦しみを周りになかなか理解してもらえません。
 
 

カサンドラ症候群の症状

上にも述べたように、「カサンドラ症候群」というのは医学で認められた病気ではありませんので、「症状」という表現も適切ではないかもしれません。
とはいえ、同じような状況に悩む人たちには、同じような症状が見られることも多いでしょう。
 
夫婦関係という距離の近い人間関係のストレスは、次のような反応を引き起こすことがあります。

回復・改善のための試み

配偶者・パートナーとの関係で悩んでいる自分が、「カサンドラ症候群といってもいいのかもしれない」と気づいたら、どうすればいいでしょうか?
 
身体症状や不眠、イライラなどには、心療内科を受診して治療を受けることも役に立つでしょう。
 
また、配偶者・パートナーと、率直に話し合ってみることも必要です。場合によっては、医療機関を受診して、アスペルガーなどの発達障害があるのかどうかを相談してみることも意味があると思われます。
 
配偶者・パートナーの特性を理解することで、より伝わりやすいコミュニケーションが工夫できることもあります。
「この人は、悪気があってあんなことを言ったりしたりしているんじゃないんだ」
と分かることで、気持ちが楽になることも多いでしょう。
発達障害をもっている当事者の方も、ご自分の特性を知ることで、より生きやすくなると思います。
 

自助グループ

自助グループに参加するというのもひとつの方法です。
関西でも、カサンドラ症候群の自助グループがいくつか活動しているようです。
 
にじいろ(大阪)
 
関心のある方は、リンク先をご参照ください。
 
という記事には、カサンドラ症候群と自助グループのことが取り上げられています。
 

カウンセリング・心理テスト

発達障害の特性を知るための心理テストを求めて、カウンセリングルームを訪ねる方もいます。
また、ご自身の悩みや、夫婦関係の相談で、カウンセリングを利用する人もたくさんおられます。

神戸の夫婦カウンセリング、パートナーとの関係性の悩みの相談

 
 
 
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