神戸・芦屋・西宮のカウンセリング・かささぎ心理相談室|臨床心理士
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コントロールすること、手をはなすこと

心理学用語に、ローカス・オブ・コントロール locus of control というものがあります。ローカスというのは場所や力の根源という意味で、「統制の所在」などと訳されます。「ものごとをコントロールする力のありか」ということですね。それを自己の内部(自分の能力や努力など)においているか、外部(環境や運など)においているかを調べることで、個人の人格の一面が明らかになると考えられています。ジュリアン・ロッターというアメリカの心理学者が1960年代に提唱しました。極端な偏りはよくありませんが、おおむね、コントロール力を自己の内部にもっている人(人生は自分でコントロールできると感じている人)のほうが精神的健康度が高く、幸福な人生を送れると考えられています。
アメリカ発の心理学には、他にも、自己効力感や学習性無力感、エンパワメントなど、コントロールやパワーを保持することを精神的健康の基盤と考える用語や理論がたくさんあります。しかしもちろん世界にはさまざまな考え方があります。コントロールやパワーについてまったく別の視点を教えてくれる文章をご紹介しましょう。ディネーセンという女性の書いた『アフリカの日々』という本の一節です。

北欧で生まれ育ち、1914年にアフリカのケニアに渡った白人女性アイザック・ディネーセンは、コーヒー農園の女主人として、ケニアの人たちと18年間生活をともにしました。ディネーセンは雇主として、農園で働く現地の人々のけがや病気を応急手当てするようになります。とくに医療の訓練を受けた経験はなく、一般市民としての医療知識しかありません。しかしやがて、彼女のもとには大勢の患者がつめかけるようになります。本物の医師もちゃんといるのに、なぜか土地のひとたちはディネーセンの「治療」のほうを好みます。その理由を、ディネーセンは以下のように推察しています。

【私の医療知識はきわめて乏しく、応急処置の域を出なかった。だが、医者としての私の評判は、幸運にめぐまれたいくつかの完治例のせいで、広く行き渡ってしまい、致命的な手ちがいを犯しても、その評判はいっこうにおとろえてはくれなかった。
仮にそれぞれの病気が必ずなおると保証するだけの力量が私にあったとしたら、そのことが患者の数を逆に減らしはしなかっただろうか? (中略)なぜなら彼らの知る神とは、大旱魃の年によって、夜の平原のライオンによって、子供たちだけがいる家をおそうヒョウによって、また、どこからともなく襲来し、どこへともしれず去ってゆくイナゴの大群によって、示されるからである。同時に彼らは、信じがたいような至福のときを通じて神を知る。イナゴの大群がトウモロコシ畑の上を着陸せずに過ぎさったとき、春の雨が早めにはじまり、雨量も多く、畑も平原もいっせいに花ひらき、ゆたかな実りを与えてくれるときだ】

本職の医師ならやらないような大失敗をときどき犯すからこそ、ディネーセンは、「神がついている医者」として人気をはくしているというのです。結果がわからないということ、ものごとがコントロールできないことに、アフリカのひとたちは神の力をみとめるのです。はらはら、どきどきするということ。そこには躍動があり、生死よりも(!)高い価値がおかれているのです。ディネーセンが現地で知り合ったドイツ人医師は、アフリカ人の患者は痛みや手術に対してほとんど恐怖をみせないけれど、規則正しさをひどくきらって毎日手当てを受けに通うことができない、と嘆いていたそうです。「自分の思うとおりにものごとが進む」なんて、アフリカのひとたちにとっては、精神の牢獄にも等しい状態なのかもしれません。

こうして考えをめぐらせていると、「自分の思うとおりにものごとが進む」ということは、便利で快適なことではありますが、真のこころの健康とは別次元のことであるようにも思えてきます。コントロールすることは快感をうむからこそ、欲望を誘います。その欲望はさらなる支配をうみます。そこにはきりがありません。
がんばってもうまくいかない。うまくいっているはずなのになぜか苦しい。そんな行き詰まりを感じるときには、握りしめているコントローラーから手をはなしてみるのもひとつです。そういえば子どもの頃に自転車の手ばなし運転をしたなあ、なんて思い出しながら。おそるおそるでも、ちょっと手をはなしてみる。すると思いがけないスリルと解放感にぴょんと命が跳ねて、生きるエネルギーが湧いてくるかもしれません(あるいは転んで痛い思いをするかもしれませんが)。
そういえば今年はディズニー映画から「Let It Go」という歌がヒットしていますね。「ありのままで」という邦訳も素敵ですが、本来の意味は「手をはなすこと」「あきらめること」。さすがのアメリカ人もコントロールすることに疲れて、「レリゴー、レリゴー」と歌いながらしばしの解放感を味わっているのかもしれません。(A)

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アイザック・ディネーセン著、横山貞子訳『アフリカの日々』(ディネーセン・コレクション1)、晶文社


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