発達の3つの領域

先日、大学生に「発達心理学」の話をしたときに、「発達は3つの領域からとらえることができる」ということを伝えました。「発達を促進するための3つのエンジン」と言い換えることもできます。

これは、乳幼児や子どもの発達だけでなく、大人の発達や成長にとっても同じです。

発達の3つの領域「認知」「身体」「関係性」|発達障害

発達の3つの領域

3つの領域とは、

  1. 認知・思考・言語
  2. 身体・五感
  3. 関係性・社会性

です。

「認知や思考・言語」の領域は、言ってみれば「わかる」ことの発達です。乳幼児は言葉を覚えるなかで、だんだん「わかる」ことを増やしていきます。発達心理学では、ピアジェの認知発達論などが知られています。

大人にとっても、本を読んだり、人の話を聞くことで、「わかる」ことが増えていくでしょう。

2つめの「身体と五感」が、今日の話のポイントです。赤ん坊がハイハイをしたり、手で玩具をつかむことで世界を探求するように、大人になってからの成長や発達にも、「身体性」あるいは「身体知」とでもいうべきものが深く関与しているのです。

「関係性や社会性」とは、他者との関わりや相互作用の領域です。子どもの場合は、模倣遊びやごっこ遊び、ルールのある遊び、といったように発達していきます。

大人になってからの発達、というより学びや成長は、どうも「思考」にかたよりすぎる傾向があるらしい。むしろ、成長のベースにあるのは、身体性ではないか、といったことが今日、いちばん言いたいことです。

カウンセリングと身体性

「カウンセリング」は、一般的にはカウンセラーとクライエント(相談者をこう呼びます)が椅子に座って、1時間くらい困りごと、悩みごとを言葉で相談するというかたちを取られることが多いでしょう。

言葉のやり取りが中心なので、一見、頭や思考を使った作業だと思えるかもしれません。

ところが実際のカウンセリングは、知的な作業というよりは、身振りや手振り、視線、あるいはお互いの声のやりとりなどの身体的な表現を用いたコミュニケーションです。

クライエントは、自分や関わる人々、起こった出来事について話をしながら、これまで知らず知らずのうちに抑え込んだり避けてきた感情や体験に触れていきます。そうして、身体全体で「ああそうか」と感じられたときに、変化や成長が起こるのです。

大人の発達障害と身体性

「大人の発達障害」についてテレビや新聞などで取り上げられることが増えてきました。

発達障害をもつ人たちの生きづらさを軽減するために、教育や医療などでよく行われるのが、「心理教育」や「ソーシャル・スキル・トレーニング」です。発達障害について理解し、人と関わる上での「社会的な技術」をロールプレイなどで学ぶというやり方です。

これは、「発達の3つの領域」という図から見ると、「認知・思考・言語」からのアプローチという面が強いと思われます。

確かに、アスペルガータイプの人たちは、思考や言語が得意な方も多いので、知的な理解から入るのがやりやすいことも多いでしょう。

でも、カウンセリングなどで多くの人とお会いしていると、発達障害をもつ人たちが大きく成長するのは、「身体性」に触れることができたときだという印象を受けるのです。

ある人は、合気道などの武道を習い始めて、人との「間合い」が感覚的に分かるようになったと言います。

ダンスをやってみたら、阿吽の呼吸ということが少しつかめたと話す人もいました。

また、ヨガや気功法、太極拳などにとりくむことで、刺激にすぐ反応してしまうのではなく、自分の身体内部の感覚に目を向けて、一呼吸置くことができるようになるかもしれません。ADHD傾向のある人は、「自己治療の試み」なのか、こうした活動に興味を向けることがあるようです。

こうした活動には、どれも「型」があるのもメリットです。「人間関係」や「社会性」(「常識」とか「普通」といったことも含みます)は、目には見えないので、発達障害をもつ人にとってはよくわからないし困るということが多いのです。

それと比べると、武道やヨガなどには一定の「型」があります。型を通して、間合いとか呼吸とか、あるいは身体感覚といったことを学んでいけるがいいようです。

大人の発達障害と不思議惑星もどうぞ。

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