パーソナリティ障害とカウンセリング・心理療法

パーソナリティ障害とは

心理テストでわかる5つの性格(ビッグファイブ)でも書いたように、パーソナリティ(性格、人格)とは、「その個人の思考・感情・行動の根底にある持続的で一定したパターン」(ICD)あるいは「認知・感情・対人関係の領域にわたる持続的で一貫した傾向」(DSM–Ⅳ)という意味です。

私たちはみな、その人なりの考え方や行動の特徴をもって生きています。それを「パーソナリティ」と呼ぶのですね。

そのパーソナリティの特徴が、かなり極端なために、社会生活に支障をきたす人がいます。

パーソナリティの偏りや極端さから、人間関係や社会生活が送りにくくなり、本人が大きな苦痛を体験しているときに精神科などの病院で「パーソナリティ障害」と診断されることがあります。

いくつかのタイプに分類され、それぞれ特徴的な行動パターンを示すことが多いのです。

パーソナリティ障害の原因はまだはっきりとは分かっていません。アメリカでは人口の15%近くにパーソナリティ障害が認められるとも言われており、果たしてどこまでを病気と捉えていいのか、正常と以上の線をどこで引くのかといった問題もあります。

パーソナリティ障害の代表でもある「境界性パーソナリティ障害」自体が、もともと「精神病と神経症の境界」にある病態で、どちらの特徴ももつとされていたことを見てもわかるように、病気と健康、異常と正常の境界にあるとらえにくい障害なのです。

とはいえ、本人や周囲の人がこの障害によって大きな苦しみを体験することがあるのも事実です。

ここでは、パーソナリティ障害の代表的なタイプと、その治療について書いてみることにします。

パーソナリティ障害の分類

パーソナリティ障害は大きく次の3つの群に分類されています。

A群パーソナリティ障害

この群のパーソナリティ障害の人々は、「奇異で普通ではない行動」が特徴だと見なされています。統合失調症に類似した体験や症状を示すことが多いのですが、明らかな精神病というほどのブレイクダウンは見られません。

妄想性パーソナリティ障害

はっきりとした理由や根拠もなく、誰かにだまされている、搾取されていると被害的に捉え、他人を信じられないといった人たちです。猜疑性パーソナリティ障害と呼ばれることもあります。

他者への怒りや拒絶、不信感とともに、ものごとをゆがめて受け取るような傾向が強いため、社会生活に支障をきたしてしまいます。

周囲とのトラブルで不調となり、病院などを受診することがあります。

シゾイドパーソナリティ障害

他人や社会的な関係にほとんど関心をもたず、孤立した引きこもりがちの生活を送ることが多い人々です。「シゾイド」とか「スキゾイド」と呼ばれることもあります(「お一人様」をもじって「おシゾ様」という言い方もあるそうです)。

対人関係を好まず、感情表現も乏しく、何に対しても興味関心が薄いように見えます。

社交不安障害や回避性パーソナリティ障害の人たちが、「人と関わりたいのに不安でできない」のと比べると、シゾイドパーソナリティの人はそもそも他者への関心が弱いのです。家族との間でさえ、親密な関係をもちたがらないこともあります。

マイペースで生きる人たちですので、あまり人と関わらずコツコツと仕事や生活ができていれば、「障害」と見なされることもなく、社会の片隅で人生を送っていくでしょう。

人にはなかなか見せないものの、独自の豊かな世界をもっていることもあります。

環境との折り合いが悪くて、心身の不調や適応上の問題が生じた場合に、医療機関やカウンセリングに来られることがあります。ただ、治療関係で支えられるという体験ももちにくい方たちですので、積極的にカウンセリングを利用されることは少ないでしょう。

失調型パーソナリティ障害

「統合失調型パーソナリティ障害」とも呼ばれます。英語で言うと、「スキゾタイパル」となりますので、上のシゾイドパーソナリティとよく似た特徴をもっています。対人関係が苦手で、人や社会と関わるよりは自身の空想の世界に引きこもっていることが多い人々です。奇異な考え方や行動が目立ち、周囲からは「変わった人」と見なされがちです。

魔術的なことを信じていたり、妄想や関係念慮などが見られることもあります。

長く精神科の病院で勤めていますが、実際にこの診断がつけられた人と出会ったことはほとんどありません。病院に受診したり、入院するほどの病状であれば、統合失調症と診断されることが一般的でしょう(遺伝的にも統合失調症と近く、病気が発症していない状態と考えられることもあります)。

そうでなければ、「風変わりな人」くらいに思われて世の中で生きている人もたくさんおられるのではないでしょうか。

B群パーソナリティ障害

情緒や行動、対人関係の不安定さが目立つ一群です。感情の浮き沈みが激しく、混乱しやすいのが特徴で、他人を巻き込んでしまいがちです。いくつかのサブタイプに分類されています。パーソナリティ傾向としては、「協調性」が乏しいと考えられています。

境界性パーソナリティ障害

情緒の不安定さや、衝動的な行動が特徴です。「ボーダーライン・パーソナリティ」とも呼ばれます。「見捨てられる」ことへの不安が大きく、人間関係も極端になりがちです。自傷や自殺関連行動、あるいは極端な浪費や性的な逸脱行動などで、自分を傷つけたり、他人をふりまわしてしまうことがあります。

詳しくは、境界性パーソナリティ障害のカウンセリングをご覧下さい。

演技性パーソナリティ障害

他人の注目を得るために、目立つ外見や行動を取ります。かつて、「ヒステリー」と呼ばれていた病気に近いと考えられています。反応が大げさになりやすく、芝居がかって見えることがあります。感情的で、かんしゃくを起こしたり、泣いたりすることが多く、人間関係が表面的になりがちです。

パーソナリティが未熟で依存的であることが多く、明るく(あるいは派手に)ふるまいますが、自分に自信がなく大きな不安を抱えています。身体化障害やうつ病などの気分障害が合併していることもあります。

演技性パーソナリティの人々は、「演じる」ことにエネルギーをそそぎすぎて、自身の本当の感情や体験に目を向けにくいという特徴があります。

カウンセリングでは、自らの感情や、行動パターンに気づいていくことが重視されます。

自己愛性パーソナリティ障害

傲慢さや尊大な態度が問題となることの多いパーソナリティ障害です。他者からの賞賛や注目を求めますが、他人の感情には無頓着です。自分は特別だという意識が強く、他人を自分の目的のためだけに利用します。自分の思う通りにならないと激しく憤怒することもあります。

ナルシシズムという言葉は、ギリシャ神話のナルキッソスという青年の名前に由来しています。ナルキッソスは、泉に映った自分の姿に恋いこがれて、いつまでも水面を見つめ続けたために衰弱死してしまったのでした。

傲慢さや共感性の乏しさがモラルハラスメントのようなかたちで表現されて、家族や職場の部下が悩まされることも多いでしょう。

人間関係や社会生活のトラブルでご本人がカウンセリングに来談されることもあります。傲慢さや尊大さの根っこには、強い劣等感が隠れていることがあります。そのような見たくない感情や不安を直視できるようになると、過度な賞賛をもとめなくても自分を保っていられるようになります。

反社会性パーソナリティ障害

反社会的で、衝動的な行動をくり返すのが特徴です。法律に反する行動も多く、人をだます、ウソをつく、攻撃するといったことをためらわずにしてしまいます。優しさや、人を愛するといった感情が希薄で、自分の欲望のままに利己的にふるまうことが習わしになっています。このために犯罪、あるいはアルコールや薬物などの依存症といった問題を起こしやすいのです。

自ら望んでカウンセリングや治療に訪れることは少ないでしょう。

 

C群パーソナリティ障害

C群パーソナリティ障害には不安や恐怖と関連した行動を示す一群の人々が含まれています。人と関わることへの恐怖感が大きく、対人恐怖症などとも関連があります。

回避性パーソナリティ障害

「不安性パーソナリティ障害」とも言います。不安や緊張が大きく、批判されることや拒否されることを恐れて、人間関係を回避します。パーソナリティ傾向としては、内向性や神経症傾向が大きいと考えられます。

依存性パーソナリティ障害

一人でいることへの不安が極端に大きく、他人に過度に依存してしまいます。自分に自信がないのが特徴で、何事に対しても強い無力感を抱いています。

強迫性パーソナリティ障害

融通が利かずに、秩序を保つことへのこだわりが強いパーソナリティ傾向を持っています。生活や人間関係が損なわれるほど「きっちり」していないと気が済まないといった人たちです。パーソナリティ傾向としては、「統制性」が高いと考えられます。

その名称から、強迫性障害と混同されやすいのですが、完全性や秩序、コントロールの重視が強迫性パーソナリティの特徴で、強迫観念や強迫行為は見られません(合併することもあります)。

 

パーソナリティ障害をもつ人との接し方

このような特徴を記した文章を読むと、誰しも「自分に当てはまるかも」とか、「あの人はやっぱりこの障害だったのか」と考えてしまいがちです。

でも、パーソナリティ障害の見立ては、精神科医などの専門家でもかなり難しいのが実際です。医師によって診断や意見が分かれることもしばしばあります。

臨床心理士やカウンセラーは、いわゆる診断はできませんが、上に挙げたような分類を念頭に置くこともあります。でも、「パーソナリティ」というものは、対人関係のなかに表れるものなので、関係性をどう見るかはやはり難しいことなのです。

こうした分類は、あくまで参考くらいに考えておく方がよいと思います。言葉のラベルを貼って見通しや風通しがよくなるのでしたら、それなりの意味はあるでしょう。けれど、そのラベルにこだわりすぎるとかえって本当のことが見えにくくなります。

とはいえ、「身近にこのような特徴をもつ人がいて、どう接したらいいか分からず困っている」ということもあるでしょう。

「パーソナリティ障害」といっても、タイプによってずいぶん違いますし、それに同じ障害と見なされたとしても、一人一人がまた違った個性をもっています。

「パーソナリティ」とは本来そういうものですよね。

だから、あまり一般化はできません。

いずれの群の人との接し方にも共通するのは、「ほどよい距離感」でしょう。

パーソナリティ障害は、人と人の関係において問題となる障害です。

多くの場合、関係が近くなりすぎて巻き込まれてしまうのだと思われます。

A群パーソナリティ障害の人との接し方でも、やはり「ほどよい距離感」が大切です。シゾイド傾向のある人は、他人にあまり踏み込まれたくない方が多いので、ある程度距離がある方が安心します。

妄想性パーソナリティの人が被害的あるいは攻撃的になるときも、彼ら/彼女らの安心感が脅かされたときが多いでしょう。論破しようとしたり、対決姿勢を示すと不安からよけいに被害的な構えになることがあります。

B群パーソナリティ障害の人々との関わりでは、巻き込まれないための距離感が重要になってきます。いろいろなことを要求されることもありますが、できることとできないことをはっきりさせなくてはいけません。

C群の方々との関わりでも、本来は自分で担うべき課題や責任の肩代わりをしないようにすることが大切です。自分で決めたり、行動してもらって、少しずつ自信をもてるように関わるのがいいでしょう。

 

パーソナリティ障害の治療とカウンセリング・心理療法

冒頭にも書いたように、パーソナリティの偏りがあっても社会生活や人間関係で問題がなく、ご本人(もしくは周囲)が苦痛を感じていなければ、「パーソナリティ障害」と見なされる必要はありません。また、精神科の治療やカウンセリングを受ける必要もないでしょう。

しかし社会生活上の問題が大きく、ご本人の苦悩が大きいときに治療やカウンセリングの対象となることがあります。

抑うつや不安などの症状がある場合には、薬物療法が用いられることもあるでしょう。

また環境や人間関係の調整が試みられたり、ご本人や家族のカウンセリングが導入されることもあります。

パーソナリティの障害は、関係性において問題化されることがあるので、家族関係への介入が効果的なことが多いのです。

ご本人のパーソナリティを対象としたカウンセリングは長期に渡ることが多く、カウンセリングというよりは心理療法と呼んだほうが適切でしょう。

それは、カウンセラー(セラピスト)との人間関係を通じてのパーソナリティの成長や変化といっていい作業となります。

【参考】

パーソナリティ障害の概要|MSDマニュアル

林直樹先生に「パーソナリティ障害」を訊く|日本精神神経学会

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